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「灯台下、扉裏に二人。……失礼、東灯台だ。」
「了解。東灯台下二人把握。」
「背後に敵がいた様だがどうなった?」
「チャーリーが奮闘している。」
「リーダー、どれくらいかかる?」
「もう終わった。」
「アーディン、彼はどんな感じだ?」
医務室から廊下へと足を踏み出したアーディンへ、白髪混じりで面長の男が声を掛けた。
「どうってなにが?」
「二日目なんだろ?使い勝手はどうかと聞いたのさ。」
「ああ……。」
好奇心だろうか。アーディンは答えを濁し、曖昧に返事をした。
新人のクロダの様子を聞かれたのは、これで通算四回目だ。三日前に入隊し、二日前から出撃開始した、日系の凄腕小銃手。
入隊前から、噂はよく耳にしていた。
「よくやってくれてるよ。」
どうも何も、まだ二日目である。それに、成績のボードを見れば、評価は丸分かりなのに。彼らは、アーディンの、クロダに対する評価が欲しいのだ。
「リーダー、少し話があるんだが、いいだろうか。」
「クロダ。……ああ、構わないよ。」
「それで、話というのは?」
差し出された熱い缶コーヒーを受け取りながら、クロダはああ、と答えた。
「先にお礼を、と思って。」
「礼?」
プルタブを、小気味いい音を奏でながら外す。眼を丸くしたアーディンが、クロダの顔を覗き込んだ。
「長い事申請を受け入れて貰えなくて困ってたんだ。本当にありがとう。」
クロダにしてみれば、それは当然の謝恩であり、礼を本人に伝えるのもまた当然だと思っている。
ワールドワイド内では、先人の行いの所為かアジア系人種は『役立たず』とレッテルを貼られていた。
アーディンにしてみればそれはとても下らない事であり、煩わしいものだった。
だからという訳ではないのだが、リーダーを務めるアーディンは、耳に入れると即座に入隊推薦状をクロダ宛てに送った。
事前情報での評判は申し分ない。実際会ってみて、特に無骨者という訳でもない。
アーディンは、すぐに入隊を許可し、早速戦力として活躍させた。
どちらかと言えば、こちらの方が謝罪するべきであり、礼を述べる立場である。
アーディンは苦笑した。
「クロダは根からの日本人だね。」
怪訝そうな表情をしたクロダに、アーディンは続ける。
「褒め言葉だよ。君が我がクランに入ってくれて、本当に良かったと思ってる。」
クロダは、差し出された手を、何のためらいもなく握りしめた。