定義
眼鏡の定義
中学の頃科学部に入っていた。十三歳の透き通った体には、夢想によって薄められた血液が集まるための小部屋が必要だったし、十三歳の墜ちてゆく倫理は、それまで入射していた論理の湖から溢れ、また日々を結合させる感情の貸し借りに慣れる必要があった。
我々は研究で賞をとった。だが、我々が行ったのは手作業、つまり信念の歌声だけであり、計画から作文からすべて工学的な打楽は顧問の教師が行った。だから私は賞が少しも嬉しくなかった。
それで私は部員たちに部をやめるよう働きかけた。私は、幼年時代の筒状の闇が人よりも早く分裂していて、社会の備品としての矛盾をレンズのように拡大しレンズのように焼こうとしていた。私はまだ、矛盾が人間と愛と生産と原石であることに気づいていなかったのだ。
私は数人を巻き込んで科学部をやめた。教師に怒られた。
高校に入って部屋の整理をしていたら、双眼鏡を見つけた。科学部で野鳥観察をしたときに買ったものだった。懐かしかった、空の中心へと脱落していく成熟を小鳥のように拾い集めていた日々が。眩しかった、部員たちの点描していた笑いや戯れのパズルの解法が。惜しかった、矛盾を摂り入れていたら私を打ち続けていたであろう社会のしなやかな美が。
彼女はいつも眼鏡をかけていた。眼鏡をかけていると自分が美しく見える。表情の心拍へとすべてが囁き合い試し合い悲しみ合うのだった。眼鏡を外すと自分が美しく見えない。感情の柱が外れてすべてが漂流し陥落し黙秘してしまうのだった。愛すべき罪のように、千切られた死のように、濃縮された経水のように、眼鏡は彼女の出自にまで遡っていた。眼鏡を外すと彼女は一瞬五番目の彼女になり、それに慣れると三番目の彼女になる。彼女の番号はいつも奇数だ。
飲み会などで、同僚などに「眼鏡外してみてよ」と言われることがしばしばあった。他人は彼女とは羞恥の濃度が異なる気圏にいて、彼女の皮膚を衣服と間違えているのだった。彼女は「眼鏡は顔の一部」と言って断った。人前で眼鏡を外したら彼女は七番目の彼女になってしまう。
親しい男友達ができた。彼はすきを見てさっと彼女の眼鏡を取り外した。彼女は九番目の彼女になった。内側へと改革されていた彼女の人格が地上へと伯仲した。彼の視線の大行軍に対して彼女の視線は無力に渦巻きまとわりついた。一番目の彼女は狂い死に、三番目の彼女は身構えて、五番目の彼女は驚き通し、七番目の彼女は微笑んだ。「なんだ、きれいじゃない。」彼の言葉に、彼女は十一番目の彼女になった。