二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

The way to love "my way".

INDEX|3ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

帝人の諦念


 一週間には七日があって、その内五日は学校がある。二日は休みで、大抵その内の一日は正臣や他の友達とぶらぶらして過ごす。七日の内二日や三日は折原臨也や、セルティや、その他池袋の有名人たちと出くわしたり、つるんだりする。
 一週間。
 案外忙しい七日の、その内実に三日を、竜ヶ峰帝人は平和島静雄と過ごしている。



(…どうしてこうなったんだか)
 帝人は床で晴れた日の猫のように伸びている男を見ながら考える。
 静雄は裾のほつれたスエットに背中に穴の開いたTシャツで日の当たる窓際に転がっている。日の傾きにつれてゴロゴロと移動しているのも、そのスエットが弟と一緒に買った5年ものでありTシャツに開いた穴はうっかり人差し指で突き破ってしまったものであることも、帝人は知っている。
 ついでに平和島家のどこに何があるかも、給湯器の使い方も、録画予約の仕方まで、帝人は知ってしまっている。
(馴染み過ぎだろ、僕)
 帝人は苦笑気味に溜め息を吐く。
 きっかけはあの日、ファストフード店で静雄の煙草を手にとったことだった。他愛ないやりとりの末、なぜだかこの家へ文字通りに担ぎこまれ、リビングの惨状に呆気にとられて片付けを始めた。
 その間に静雄がぽつぽつと語った話を、実のところ帝人はよく覚えていない。帝人に理解できたのは、静雄がものの置き場所や並べ方にちょっとこだわりが強いこと、それが原因でキレてしまうこともあること、それから自分がなぜだか、静雄のルールに則って行動しているらしいこと、それだけだった。
 深夜までかかってなんとか部屋を元通り──多分──に戻し、もう遅いからと泊めてもらったその翌朝、帝人はむっくりと起き上がると、隣で子供みたいに丸まって眠る男を見下ろした。深夜まで大騒ぎしていた男の目の下にはうっすらと隈が浮いている。男には珍しいほどきめの細かい肌に伸びかけの髭が散っていて、あどけない顔にどこかアンバランスだった。
 その寝顔を見ながら帝人はぼんやりと考えた。この人は、どうして僕をあんなにすごいものみたいに見たんだろう。どうして泣き出す寸前みたいな顔をして僕にしがみついたんだろう。
 ───そのときの帝人には、なぜ静雄がああも感動したのか分からなかったのだ。
 


 それから帝人は度々静雄の家に出入りするようになり、そしてその理由を知った。
 ───静雄には、帝人以外に誰もいないのだ。



 あまりにも静雄が帝人の一挙手一投足を感動したように見つめるので、居心地悪くなった帝人は一時期静雄を避けた。別に静雄が嫌いになったわけでも、面倒になったわけでもなかったが───実のところ、帝人は静雄に憧れていたし、稀に見る二枚目で池袋最強の男に特別扱いされるのは結構気分がよかった───、ただ静雄の家でごろごろDVDを見たり、ほとんど使っていなかったというキッチンで簡単なものを作って一緒に食べたり、一緒に買い物をしてお茶したり、そんななんでもない行動にいちいち大げさに反応されるのは、ちょっとなあというのが本音だった。
 要するに、静雄があんまり平凡の象徴のような自分を特別視するので、自分はそんなにいいもんじゃないと気後れしてしまったのだ。
 ところがさりげなく静雄を避け始めたその一週間後辺りから、池袋から自販機が消えた。自販機どころか、標識も、ポストも、ゴミ箱も、挙句の果てには街路樹と電話ボックスもいくつか姿を消した。正臣は某所の風俗ビルの外階段が一連消失したのを見たという。というかお前は何を見てるんだ。
 もしかして、というかまあ、あの人しかいないよなあと考え出した頃、セルティが帝人を迎えに来た。それも来良学園の正門前まで。シューターと彼女が呼ぶバイクの後ろにまたがってたどり着いた先は川越街道沿いの二人のマンションだった。
 出迎えた新羅はへらへら笑っていたが、ふかふかのソファに座って聞いた話は案外重かった。
『要するに、静雄のアレは病気なんだよ』
 新羅が言うのに首を傾げると、セルティがネット辞典の一節をペーストしてみせてくれる。
『…強迫性障害、ですか?』
『そう。もっとも私は精神科医じゃないから診断はできないけど、不完全強迫の一種じゃないかな。高校のときからそう。幽くんに聞いたら、小学校くらいのときも熱心にものを並べてたことがあるって言うから、昔からなんだね。
 本人はずっと気付いてなかったみたいだけど、それが余計にストレスになってたらしい。俺が高校の時にOCDだって言ったら、ちょっとは楽になったらしいから』
 こないだ静雄から聞かなかった? と新羅に尋ねられ、帝人は首を振った。
『片付けにこだわりがあって、うまくいかないとか…ああ、うまくモノが並んでないとキレちゃうとか聞いた気がします。なんで誰も俺の思うようにやってくれないんだって嘆いてました』
『そう! それなんだよ』
 新羅は嬉しそうに手を打った。
『静雄はね、ほら、化け物だろ。でもまあ、あの暴力の塊みたいな男にもそれなりに近づいてくる人間はいて、奇跡的にあいつの化け物じみたところを気にしない女の子ってのも、まあいるんだよね。顔いいし、あいつ。静雄は基本的に愛とか他人との接触とかに飢えてるから、自分がそんなに好きじゃなくても受け入れちゃうわけ。で、ちょっと仲が進んで、静雄の生活の中に入るともうだめ』
 セルティが横からPDAをかざした。
《一日ももたないんだよ。静雄の家に置いてあるものって、その辺に放り出してるようにしか見えないから、気を利かせて彼女が片付けちゃうんだ。それで静雄がキレて、おしまい》
『それは…』
 帝人は絶句した。そういえばあの日も、そんなことを言っていた気がする。
『静雄には誰もいないんだ。静雄の暴力が外向きに他人を遠ざけて、OCD的傾向が内向きに他人を遠ざける。せっかく静雄の化け物じみたところを乗り越えて近づいてくれる人がいて
も、今度は静雄自身がその人を拒絶してしまう。好き嫌いに関わりなくね』
 好むと好まざるとにかかわらず、静雄はぜったいに人と幸せにはなれないんだよ───と新羅は言って、苦笑するように口元を歪めた。
『そんな、』
 帝人はぎゅっと拳を握った。
 ───そんな、悲しい、ことが。 
 誰かが静雄を好きになってくれても、静雄はそのひとを許容できない。静雄を許容できる人間はもしかしたらいるのかもしれないが、そのひとは静雄を恐れて近寄らない。
 それなら静雄は、───永遠に独りきりだ。
『好きになってくれる人を好きになれない、許容もできない。自分が悪いのは分かってるから、どうしようもない。静雄はずっとひとりぼっちだったんだよ』
 新羅が静かに言う。帝人は俯いた。
 セルティがその肩をそっと抱いた。
 しばしの沈黙の後、セルティがそっとPDAを差し出した。
《でもその静雄が見つけたのが帝人、きみなんだ》
『、え…』
 帝人は目を瞬かせた。新羅がセルティの言葉を継ぐ。