先生の特別
あれから数日。
私は心が晴れず、放心状態だった。
いろんなことが一気に起こりすぎて、訳わかんないよ。
部活でベンチに入れない。
先生に彼女がいる。
自分でもどうすればいいか分かんない。
私は放課後の屋上にいた。
授業もサボり、部活もサボり、ひとり屋上に。
野球部のランニングの声、真下にある音楽室から聞こえる吹奏楽部の演奏。
空が、みえる。
もうすぐ雨が降りそう。
雨雲の切れ間から、そっと太陽が顔をのぞかせる。
「はぁ…何やってんだろ、わたし…」
屋上の灰色がかった壁にもたれる。
4月とはいえ、少し肌寒い。
寒さとともに消え行きそうな、私の心。
逃げてばかり____
正面から向き合いたい。
でも、そんな勇気がない。
雨雲が、青い空を覆い始める。
ガチャ…
ドアの開く音がした。
「ハァ…ハァ…」
息の途切れる音。
ドアの前には…
「せ…んせい…?」
大きく肩で息をしている。
どうしてここに?
「お前…部活は…?」
息の整わないうちに喋る先生。
そんなこと聞くために、こんな寒い屋上に?
「サ…ボリ…」
うつむきながら答えた。
こんなこと聞いたら、怒るだろうな。
サボりなんて、面倒な生徒だと思われるかもしれない。
「嘘、つくな…。サボりじゃ、ないだろ?」
「え…」
そう言って、私の横に座る。
先生は、気付いていた?
授業に出ない、部活に出ない、ホントの理由。
「そんなこと言うの、先生が初めてだよ」
涙が、あふれてきた。
「お前…、我慢してきたんだな…。もう、我慢しなくていいから…」
先生は、優しく私の頭をなでた。
優しすぎるよ、先生。
こんなんじゃ、もっと好きになるんだよ?
だめだよね? 先生と生徒じゃ…。
「すき…」
「え?」
「ずっと…好きだった…先生のこと」
「日野……」
「先生、わたし…!」
「言うな…、それ以上。日野を、生徒として見れなくなる…」
まっすぐに、見つめられる。
『生徒として見れなくなる…』
それって、まさか…
「卒業まで、待っててくれ。必ず、迎えに行く」
「せん…せい…?」
また、泣いてる。
先生、必ず迎えに来てくれる。
でも、
そんなんじゃ無理だよ。
卒業なんて…まだ2年もあるのに…。
「今、先生と付き合いたい…。ずっと、先生と一緒に居たい…」
「たぶん、教師と生徒じゃ辛い。俺は、隠し通せる自信がある。お前を守れる自信も」
泣いてる私の涙を拭いてくれる。
「でも、お前が辛い思いをする。それでも…俺と一緒に居たい?」
大きな瞳に吸い込まれそうだった。
優しい、先生らしい言葉。
そんなの、決まってるよ?
「先生の、特別にしてください」
そう言って私は、先生に抱きついた_________。