先生の特別
それから毎日、先生を見つける。
先生は、優しい。
いつも私の話を「うん、うん」って聞いてくれる。
こんなにドキドキして、こんなにワクワクして…。
先生が、はじめてだよ?
「ひーのー!」
声がする。
先生の声。
低く、透き通った声で、私の名前を呼ぶ。
「せんせー!」
大きく手を振った。
先生は、土曜日だというのに学校に来ていた。
でも、いつもの姿ではなく、休みの日のラフスタイル。
緑のTシャツに、ジーパン。
初めて見る先生の姿。
「日野…そんなに俺が、カッコいいか?」
はっと、我に返った。
ずっと見てた、先生の姿。
「はは! いつもと違う感じに驚いただけだよ!」
なぁんて、笑って言った。
先生は、何着ててもカッコいいよ。
でも、
最近思ってる。
生徒が先生に恋するなんて、不純だよね。
もしかして、迷惑だと思ってない?
すごく、心配になる。
こんなに好きなのに、こんなに先生のことが…好きなのに。
「日野! なにボーっとして。可愛い顔が台無しだよ?」
また…可愛いって?
耳まで赤くなった私を見て、先生は、
「日野は正直だな」
って言って笑ったんだ。
「もう!」
ははって笑う先生。
やっぱり、先生が好きだな。
そうこうしていると、雨が降ってきた。
「送ってく」
先生はそう言って鍵をジャラっと回す。
「ありがと! 先生」
「おう」
せっかく先生と二人になれるチャンス!
先生の車で送ってもらうことにした。
先生は、赤のマーチに乗っている。
それも、かなり年季がいってそう…。
助手席に乗った。
先生の顔が、横にあって緊張する。
後ろの席には…
「先生、バスケットボール持ってきてるの?」
バスケットボールがあった。
「おう。学校帰りにやってるからな。バスケ」
「そうなんだ…」
「なんなら、今からやる? 雨もそろそろ止んできたし」
「うん!」
私は元気良く返事した。
そして、前に先生に会った時の公園へ行った。
「日野、ほい」
先生がパスをする。
私は3ポイントシュート打った。
「さすが、バスケ部! 上手いなぁ」
「先生には負けるけどね」
そう言って先生にパスをする。
シュパッ
「俺、上手いな。…なんちって」
先生はべーっと舌を出して笑う。
この人の笑顔は、なんでこんなに落ち着くんだろう。
私と先生は、疲れ果てるまでバスケをしていた。
「もう…無理」
「日野、お前強すぎ」
「ははっ、体力の消耗が激しかったよ」
ベンチでぐたりと座った。
「日野って、彼氏いるの?」
「…どうしてそんなこと」
いきなりビックリした。
なんでそんなこと聞くの?
「いない…けど?」
「そっか」
「先生は、彼女いるの?」
一番、答えを聞きたくなかった質問。
でも、一番知りたい質問でもあった。
怖い。
答えが、怖い。
『彼女は、いない___』
って、言ってほしい。
先生は、重い口を開く。
「おう、いるけど…」
やっぱり、居るんだ。
聞いた瞬間、身体から力が抜ける。
立っていた膝が、がくっと落ちる。
「日野!」
先生は私を支える。
そんな優しさ、今はいらない。
なんでそんなに優しいの?
彼女にも、そんな風にしてるのかな?
いろんな考えが、私の頭の中を廻った。
「大丈夫か?」
先生は私の頭をふわっと触る。
パシッ!
「ダメ…。先生、彼女いるのに…」
先生の手を払いのけた。
涙で声が震える。
先生は、わけもわからないような顔をしてる。
ごめん、先生。
私は思い切って逃げた。
ずっとずっと、走った。