白い家の中で
それからぼくはあの白い家に通うようになった。
ぼくは殆ど毎日あの白い家の中にいて、ルービックキューブをするおじさんを見つめていた。
ぼくが来るとおじさんはいつもにこやかに迎えてくれて、そしていつも白い椅子で1人、何も言わずにルービックキューブを始めた。
ある日またおじさんの白い家に訪れたぼくは、右側だけがやたらと白くなっていることに気付いた。右側の棚のルービックキューブは、もう片手で数えられるほどしか残っていなかった。
「もうすぐ全部終わるね、ルービックキューブ」
そうぼくが言うと、おじさんは軽く頷いただけで、手は相変わらずルービックキューブをし続けていた。
「ねえ、このルービックキューブが全部終わったら、どうするの?」
おじさんは手を止めると、何となくとろんとした目になって、白い天井を仰いだ。
「そうだな……。きっともう今日の晩終わる。終わったら……、終わったら、終わり、だな。全部」
おじさんはそう答えると、そのまま暫くぼんやりとしていた。やがてまた手を動かし始めた時、ぼくはおじさんの顔に、何かきらりと光るものを見た気がした。
次の日ぼくが白い家に行くと、白い家は無くなっていた。
周りの家並みも、立っている木も、道端のハルジオンも何も変わらない。白い家だけが、まるで最初から何も無かったかのように消えていた。
ぼくはびっくりして、それからすぐに家に帰った。
「お母さん、白い家が無くなってるよ!」
息を切らしながらぼくが言うと、お母さんは首を傾げて「白い家って、何?」と言った。