終日の夏
いつまでも戻ってこない夫を訝しみ、妻の祥子が夕ご飯の支度の手を止めてやってきた。
「唯葉さん、帰られたのね。・・・あんなことがあってすぐですもの、仕方がないかもしれないけれど、素っ気ない方ね」
そっと肩に置かれた手に力がこもる。
「ねぇ、青葉さん。私今度腕によりをかけてお料理を作りますから、唯葉さんをお呼びしましょうよ。蛍一さんもお誘いすれば必ずいらっしゃるわ。ね、青葉さん。そうしましょうね」
青葉は頷くことも首を横に振ることもできなかった。唯葉は紅葉を許してやってくれと言った。いくらでも許してやることが出来る、それが悲しくて仕方がなかった。
零れ落ちた涙を、祥子が指先で拭う。
夏の日差しに炙られたのではない、ひんやりとした風が吹いた。
もう少しで彼女が愛した季節がやってくる。真っ赤に燃えあがる木々を見て微笑む妹はいないのだと、青葉はやっと思った。