Ｉ Ｌｏｖｅ Ｙｏｕ
Ｉ Ｌｏｖｅ Ｙｏｕ 作 丸山 雅史
人類が初めて宇宙の外側の「世界」へ到達したのは、僕が生まれる約３０００年前のことである。その「世界」は、１つの恒星に小さな太陽がワンセットとなっていて、そのセットが嘗て人間が暮らしていた地球のように、猿からヒトへと進化した生物達がその恒星の頂点に君臨し、文明を築いていて、それが数えきれないくらい存在していた。僕達の先祖達が生きていた宇宙を、ＮＡＳＡは「ファースト・ユニヴァース」と名付け、「ファースト・ユニヴァース」から光のスピードを遥かに超える宇宙船に乗って、人々は次々と宇宙の外側の世界へと移住を始めた。
地球には、もう人間が活用できる資源は残されていなかった。全ては、人間達の科学技術によって生み出された代用品が駆使されて、十分過ぎる程に賄われていた。因みに、地球上は深刻な自然破壊と各国の核実験の為に、西暦２０６５年に、人類以外の全ての生き物が絶滅してしまったのをきっかけに、「人類月移住計画」や「人類火星移住計画」等の実現の為の運動が世界中で巻き起こり、それから２５００年後に、人類は「地球」を捨て、月や火星に移住することに成功したのである。人類に捨てられた地球は犯罪人達の牢獄となり、月や火星で罪を犯した人間は地球までの片道の燃料だけで、「牢獄惑星」へと飛ばされていった。包み隠さず言うが、僕の先祖は罪人であり、罪人同士で生んだ子供達は、地球上の至る所に散らばっていた、人間以外の、人間が生きていく為に必要な食糧を、人間以外のＤＮＡを使用し食糧を育て、細々と生きていた。僕が生まれるまでの、５００年間、犯罪人達の大きな戦争を幾つも経て、「地球大統領」が地球を統一したのをきっかけに、彼らの争い事を止めさせ、古代インドのカースト制を利用し、力や能力のある最上級の位の人間は各国の王となり、「地球大統領」を崇拝し、人間として役に立たない人間達は、アウシュヴィッツのような施設で「苦行釈迦像」のような肉体まで痩せ細るまで、散々強制労働させ、使い物にならなくなると最下層民の子供達に撲殺させたりした。しかし、そんな地獄のように化した地球の科学の結晶を幾ら掛け合わせても、決して地球から宇宙に出られることは無かった。地球の周りには、１２基の人工衛星が回っていて、月世界征服を試みた地球大統領は、ロケットで大気圏を突破した瞬間に人工衛星のミサイルで木端微塵にされ、彼の居なくなった地球では、再び民主主義の罪人と子孫と、社会主義の罪人の子孫達が長年に渡る戦争を始め、僕が生まれた直後に、両親は民主主義派幹部のある男に殺されてしまったのである。
僕は生まれてから祖父の男手１つで、１５歳まで育てられた。
祖父が原因不明の病に倒れ、死の直前に、僕の両親を殺した民主主義派の幹部の名前を教えてくれた。祖父がまもなく死ぬと、僕は未だに地球上の世界を二分して争っている民主主義派の本拠地のある、スイスへ行き、地元のマフィアに入り、その幹部の男を暗殺しようと彼の高級マンションに乗り込み、男に馬乗りになって拳銃を口の中に突っ込み、引き金を引こうとしたその時、隣の部屋から１人の美しい女性が僕に静止するよう、懇願した。僕は暗殺するタイミングを逃した後悔が体中を毒のように回る前に、そのマンションから立ち去ろうとすると、男は僕を呼び止め、自らの拳銃を右のこめかみに密着させ、一言だけ謝罪の言葉を呟いた瞬間、男は引き金を引き、自殺した。僕は一刻も早く此処から離れなければ大変なことになると思い、再び立ち去ろうとすると、美しい女性が僕に涙を流しながら此方に駆け寄って来て、僕の左手を掴んだ。
僕はその女性を連れて、祖国へ戻って来た。僕は既に、世界中で、インターネット上で、「指名手配犯」として、莫大な懸賞金が掛けられていた。不幸中の幸いで、祖国の王は社会主義派の人間だったので、僕を国家が守ってくれることになった。
それから僕達は同棲し、心の底から愛し合うようになった。彼女は、この「ファースト・ユニヴァース」を抜け出して、僕と死ぬまで幸せに暮らしていきたい、とよく僕に話してくれていた。僕はマフィア、という悪の道から足を洗い、様々な仕事をしながら、彼女が趣味で書いていた詩を見よう見まねで書き始めていた。彼女は僕に文才があると何度も何度も褒めてくれた。僕はその度に、彼女への愛を込めた詩を書きまくり、彼女の笑顔を胸に焼き付けた。しかし、時々彼女が垣間見せる暗い素の表情は、僕の心を大いに不安にさせた。
仕事場のある同僚が僕に、「一緒に地球を出ないか？」という話を持ち掛けてきた。僕は地球大統領がこの星を脱出しようとした瞬間に人工衛星にロケットが粉々に破壊されて命を落としたことを知っていたので、「そんなことできる訳ないだろう」と適当にあしらい、仕事場に戻ろうとした突如、同僚はこう叫んだ。
「実は、俺の友人で、この地球の外周を回る人工衛星１基を電波で一時的に停止させることができるロケットを開発した奴がいるんだ。そのロケットを先に飛ばして、もう１基、俺達が乗るロケットをそのロケットの後ろにくっ付いて飛べば、その最初に飛ばしたロケットが電磁波で人工衛星を食い止めている間に、俺達のロケットは宇宙へ飛び出すことができるのさ。…ただ、この地球の科学では、その電磁波を放つロケットを無人で飛ばすことができないのさ。…だから、誰か１人の命を犠牲にするしかないんだ…」
「その１人、って誰の命を犠牲にするんだよ？！ お前まで、あの民主主義派の野郎達と同じ考えを持っているんじゃないだろうな！！ 力のある者、金のある者が人間の上に立って、独裁者的な権力を持って無用な人間達をまるで虫を踏み潰すみたいに簡単に殺戮を行い続ける。お前だって、お前の友人だって、そんな社会が嫌だから社会主義派のこの国で暮らしているんじゃねぇのか？」
「…ご、誤解しないでよ、僕は断じて民主主義派の人間なんかじゃない！！ その、そのロケットに乗って僕達の未来の為に犠牲になるのは、民主主義派の幹部の死刑囚だよ。国からの許可はもう下りているんだ。その幹部はなんでもこの国にスパイとして侵入してきた罪で死刑が確定していて、昔、暗殺未遂に終わって、脳味噌が半分吹っ飛んだ奴だよ。でも奇跡的にロケットの運転は辛うじてできるみたいで、刑務所の看守に、『死刑になるのと、人工衛星の動きを食い止めて他の人工衛星の餌食になるのとどっちがいい？』と訊かれたら、後者の方を選択したらしいんだ。だから譬え民主主義派のスパイだとしても、生命の命の重さは変わらないから、少々良心が痛むけど、自分でその選択肢を選んだんだからしょうがないよね」
僕は同僚の話を聴くと何も言わずにすぐに仕事場へ戻って作業をしている間、彼女との長年の夢が叶う機会が巡ってきたことで思わず頬を緩ませたが、同僚が言っていたとおり、譬え民主主義派のスパイだとしても、僕達の理念である、“どんな人間であろうとも、人間が人間を殺してはならない”という理念から逸脱してはならないし、それを実行することは絶対にしてはいけないことなのだ、と考えた。
人類が初めて宇宙の外側の「世界」へ到達したのは、僕が生まれる約３０００年前のことである。その「世界」は、１つの恒星に小さな太陽がワンセットとなっていて、そのセットが嘗て人間が暮らしていた地球のように、猿からヒトへと進化した生物達がその恒星の頂点に君臨し、文明を築いていて、それが数えきれないくらい存在していた。僕達の先祖達が生きていた宇宙を、ＮＡＳＡは「ファースト・ユニヴァース」と名付け、「ファースト・ユニヴァース」から光のスピードを遥かに超える宇宙船に乗って、人々は次々と宇宙の外側の世界へと移住を始めた。
地球には、もう人間が活用できる資源は残されていなかった。全ては、人間達の科学技術によって生み出された代用品が駆使されて、十分過ぎる程に賄われていた。因みに、地球上は深刻な自然破壊と各国の核実験の為に、西暦２０６５年に、人類以外の全ての生き物が絶滅してしまったのをきっかけに、「人類月移住計画」や「人類火星移住計画」等の実現の為の運動が世界中で巻き起こり、それから２５００年後に、人類は「地球」を捨て、月や火星に移住することに成功したのである。人類に捨てられた地球は犯罪人達の牢獄となり、月や火星で罪を犯した人間は地球までの片道の燃料だけで、「牢獄惑星」へと飛ばされていった。包み隠さず言うが、僕の先祖は罪人であり、罪人同士で生んだ子供達は、地球上の至る所に散らばっていた、人間以外の、人間が生きていく為に必要な食糧を、人間以外のＤＮＡを使用し食糧を育て、細々と生きていた。僕が生まれるまでの、５００年間、犯罪人達の大きな戦争を幾つも経て、「地球大統領」が地球を統一したのをきっかけに、彼らの争い事を止めさせ、古代インドのカースト制を利用し、力や能力のある最上級の位の人間は各国の王となり、「地球大統領」を崇拝し、人間として役に立たない人間達は、アウシュヴィッツのような施設で「苦行釈迦像」のような肉体まで痩せ細るまで、散々強制労働させ、使い物にならなくなると最下層民の子供達に撲殺させたりした。しかし、そんな地獄のように化した地球の科学の結晶を幾ら掛け合わせても、決して地球から宇宙に出られることは無かった。地球の周りには、１２基の人工衛星が回っていて、月世界征服を試みた地球大統領は、ロケットで大気圏を突破した瞬間に人工衛星のミサイルで木端微塵にされ、彼の居なくなった地球では、再び民主主義の罪人と子孫と、社会主義の罪人の子孫達が長年に渡る戦争を始め、僕が生まれた直後に、両親は民主主義派幹部のある男に殺されてしまったのである。
僕は生まれてから祖父の男手１つで、１５歳まで育てられた。
祖父が原因不明の病に倒れ、死の直前に、僕の両親を殺した民主主義派の幹部の名前を教えてくれた。祖父がまもなく死ぬと、僕は未だに地球上の世界を二分して争っている民主主義派の本拠地のある、スイスへ行き、地元のマフィアに入り、その幹部の男を暗殺しようと彼の高級マンションに乗り込み、男に馬乗りになって拳銃を口の中に突っ込み、引き金を引こうとしたその時、隣の部屋から１人の美しい女性が僕に静止するよう、懇願した。僕は暗殺するタイミングを逃した後悔が体中を毒のように回る前に、そのマンションから立ち去ろうとすると、男は僕を呼び止め、自らの拳銃を右のこめかみに密着させ、一言だけ謝罪の言葉を呟いた瞬間、男は引き金を引き、自殺した。僕は一刻も早く此処から離れなければ大変なことになると思い、再び立ち去ろうとすると、美しい女性が僕に涙を流しながら此方に駆け寄って来て、僕の左手を掴んだ。
僕はその女性を連れて、祖国へ戻って来た。僕は既に、世界中で、インターネット上で、「指名手配犯」として、莫大な懸賞金が掛けられていた。不幸中の幸いで、祖国の王は社会主義派の人間だったので、僕を国家が守ってくれることになった。
それから僕達は同棲し、心の底から愛し合うようになった。彼女は、この「ファースト・ユニヴァース」を抜け出して、僕と死ぬまで幸せに暮らしていきたい、とよく僕に話してくれていた。僕はマフィア、という悪の道から足を洗い、様々な仕事をしながら、彼女が趣味で書いていた詩を見よう見まねで書き始めていた。彼女は僕に文才があると何度も何度も褒めてくれた。僕はその度に、彼女への愛を込めた詩を書きまくり、彼女の笑顔を胸に焼き付けた。しかし、時々彼女が垣間見せる暗い素の表情は、僕の心を大いに不安にさせた。
仕事場のある同僚が僕に、「一緒に地球を出ないか？」という話を持ち掛けてきた。僕は地球大統領がこの星を脱出しようとした瞬間に人工衛星にロケットが粉々に破壊されて命を落としたことを知っていたので、「そんなことできる訳ないだろう」と適当にあしらい、仕事場に戻ろうとした突如、同僚はこう叫んだ。
「実は、俺の友人で、この地球の外周を回る人工衛星１基を電波で一時的に停止させることができるロケットを開発した奴がいるんだ。そのロケットを先に飛ばして、もう１基、俺達が乗るロケットをそのロケットの後ろにくっ付いて飛べば、その最初に飛ばしたロケットが電磁波で人工衛星を食い止めている間に、俺達のロケットは宇宙へ飛び出すことができるのさ。…ただ、この地球の科学では、その電磁波を放つロケットを無人で飛ばすことができないのさ。…だから、誰か１人の命を犠牲にするしかないんだ…」
「その１人、って誰の命を犠牲にするんだよ？！ お前まで、あの民主主義派の野郎達と同じ考えを持っているんじゃないだろうな！！ 力のある者、金のある者が人間の上に立って、独裁者的な権力を持って無用な人間達をまるで虫を踏み潰すみたいに簡単に殺戮を行い続ける。お前だって、お前の友人だって、そんな社会が嫌だから社会主義派のこの国で暮らしているんじゃねぇのか？」
「…ご、誤解しないでよ、僕は断じて民主主義派の人間なんかじゃない！！ その、そのロケットに乗って僕達の未来の為に犠牲になるのは、民主主義派の幹部の死刑囚だよ。国からの許可はもう下りているんだ。その幹部はなんでもこの国にスパイとして侵入してきた罪で死刑が確定していて、昔、暗殺未遂に終わって、脳味噌が半分吹っ飛んだ奴だよ。でも奇跡的にロケットの運転は辛うじてできるみたいで、刑務所の看守に、『死刑になるのと、人工衛星の動きを食い止めて他の人工衛星の餌食になるのとどっちがいい？』と訊かれたら、後者の方を選択したらしいんだ。だから譬え民主主義派のスパイだとしても、生命の命の重さは変わらないから、少々良心が痛むけど、自分でその選択肢を選んだんだからしょうがないよね」
僕は同僚の話を聴くと何も言わずにすぐに仕事場へ戻って作業をしている間、彼女との長年の夢が叶う機会が巡ってきたことで思わず頬を緩ませたが、同僚が言っていたとおり、譬え民主主義派のスパイだとしても、僕達の理念である、“どんな人間であろうとも、人間が人間を殺してはならない”という理念から逸脱してはならないし、それを実行することは絶対にしてはいけないことなのだ、と考えた。
作品名：Ｉ Ｌｏｖｅ Ｙｏｕ 作家名：丸山雅史