「富が貧で、貧が富」
そして酒を飲むと、又吉にスルメを差し出した。
又吉は、そのスルメを受け取ると、
「この“とうきょう”ちゅうでっかい村は、豊かそうに見えるが、おいらの村と比べても貧しいの。人の温かさが無いみたいやの」
と、村の衆を思い出しながら言った。
その後も、二人は話し続けた。違う時代の、逢う筈もない人間がそこに居た。
その中で、又吉は考えていた。お金がある豊かさ、人の繋がり、温かさがある豊かさ。どちらが本当に豊かなのか。
そして、男がトイレに立った隙を見て、又吉は立ち上がると、真っ直ぐ神社に戻って行った。ご神木の元へ。本当に豊かな自分の、村に戻る為。
すると、
「うわ!」
という声と同時に、鈍い音がした。
その声と、音を聞き、トイレを終えた男が、ご神木の前までやってきた。
「声がしたから来てみたが、あいつ、どこ行ったんや」
暫く周りを見渡すと、男は神社から出て行った。
男の去ったご神木の前には、男が先程渡したスルメが落ちていた。
作品名:「富が貧で、貧が富」 作家名:syo