釘の靴
やんだかと思うと突然音も立てずに目の前に歩み寄り、子供を掴んで持ち上げ
て手の甲の血管全てが浮き上がるほど力を込めて首を締めつけた。
「……へへへ…どうだい? 苦しいかい? 僕はねぇ、人々が希望の光を期待
しながらもがき苦しんでいく姿を見るのがとっても大好きなんだよ……興奮
しちゃうんだ…あぁ、気持ちいい……ハハハ、イっちゃいそうだよ…アカリを
この手で殺してからというもの、そういう快楽の満たし方にすっかり舌が肥え
ちゃったみたいなんだ…人を殺すのがこんなにもワクワクするものだとはあ
の時は想像もつかなかったよ…。
…ククク…はぁ…ねぇ、早く死んでくれないかなぁ? 僕の大切なアカリを
奪った君が最後まで正義感溢れる心を絶やさずに絶命していく過程を眺める
のはもういい加減飽きてしまったんだよ…勃起も萎えた……そんなことより
も今僕にとって最も興味があることは、この僕に殺された君を見て絶望の淵に
立たされたアカリをもう一度犯すことにあるんだ…あぁ、僕の可愛いアカリ…
僕が再び快楽に浸る君の息の根を止めてあげることができたなら……君は僕
の元へと戻ってきてくれるかもしれないね…君はもうこんな淋しい山奥で独
りぼっちで僕の罪を永遠に償い続けなくてもいいのだから……ハァ、ハァ、ハ
ハハ……ア、ァ、ア…アカリィィィィィ!!!!!」 吐き気がするほど不気
味ににやけた制服姿の男はそう叫ぶとか細い首をいっそうきつく締めつけ始
め、顔を真っ赤にさせて歯をガタガタといわせ、奇声を上げながら笑顔で異様
に膨らんだ股間を夜空に突き上げて内股気味になると、ズボンの両裾から勢い
よく糞尿を垂れ流し、それに併せて醜い放屁を数回鳴らした。ジタバタして必
死の抵抗をしてみたが、苦しさのあまり思わず小便を漏らしてしまった。
…息が…息ができない…もう…ダ、ダメだ……。
手をだらりと垂らし、最期に男の後ろに横たわる瀕死のかぐや姫と死の輪郭
に抱擁された月の光に照らされてより紅く蒼く光る鋭利な刃物を振りかざし
た人影を、完全に意識が遠のく前にぼんやりと視界の中に寄せ集めていた。そ
して二度と開くことはないかもしれない目をしっかりと閉じて気を失った。
エピローグ
再び意識が戻るとそこは真っ白な空間であった。どうやら街の市立外科病院
の一般病棟らしい。六人部屋の広い扉は廊下へ開かれていて反対側の開放的な
造りの窓からは初冬の生暖かい陽の光が差し込んでいる。隣の簡易ベッドには
両足にギブスをして何重にも頑丈に包帯が巻かれて横たわっているあかりが
僕の顔をじろじろとみて微笑んでいた。足、大丈夫なの? と聞くと、あかり
は表情一つ変えずに、
「遠い.来に住んでいる人が私達を助けてくれたのよ。あなたが切断した両足
も手術をして繋がったの。地面に打ち込まれた釘の呪縛もパパの怨念も全てあ
の森を脱出した瞬間に消え去ってしまったわ。あなたの勇気のおかげ……あり
がとう…大好き。」
あまりにも可愛い笑顔で大好きだと言われた僕は縫合手術してこれまたぐ
るぐるに包帯で固定されているお腹の痛みも忘れてアハハハハ!!! と他
の患者の迷惑も垣間見ないで二人しばらくゲラゲラ笑っていた。やがて笑顔は
残りの四人にも上手い具合に伝わっていった。
これから僕達は一体どうなっていくのだろう。輝かしい.来だといいな。
?あかり?と一緒に。
末当に楽しみだ。
了 2004年 秋