ジェスカ ラ フィン
ジェスカ ラ フィン 作 丸山 雅史
1 ハヌワグネ時計工場 一
ある日の夜、右の耳に細かな宝石を塗した金の輪を挟め、左の耳にエメラル
ドのイヤリングをした不思議な白い兎が教会の畑を荒らし、人参を食べ尽くし
た。朝、雪の積もった森に入った後、兎を見かけたが見失ってしまい、途方に
暮れた。数日間歩き回った挙句、倒れた。すると突然兎が現れて僕の顔を見下
ろした。
「僕はソフサラコマ。よろしく」
「うん? なんで戻ってきたのか分からないけど、よろしく」
茶色の皮のサンダルに薄緑の靴下、皮の黒の長ズボンに金の腕輪、翡翠のイ
ヤリングに、茶色のコットンの胸元が茶色の紐で通してある半袖セーターを着
ている僕は、ソフサラコマにポケットから携帯電話を取り出して見せた。
「教会に届けたのは君だろう?」
「そうさ。電話とは別に僕は小包の中に入っていたんだ。自分で内側から鍵を
開けて袋を解いて、ようやく外に出られた。どうやらパラシュートで空から降
りてきたみたい。小包を伸ばして受け取り人のところを見てみると?エクアク
ス?という名前があった。エクアクスという名前は分かったけど、その後どう
したらいいか全然分からなかった。記憶が無かったのもあるけど。でも君の匂
いがなんとなく森の向こう側からしてきたから、携帯電話だけ口に挟んで駆け
出したんだ。そして、そう言えば差出人には『浮遊王国ルダルス』って書いて
あったってことを思い出した。君はどんな人だろう? って何日も何日も考え
ながら走っていたらある時急に道が開けた。教会の見える丘の上だった。思い
切って君に話しかけようと思ったけど、君だけを誘き寄せたかったから畑を荒
らしたんだ。そして君が1人になった時を狙ってポストに携帯電話を入れた」
ソフサラコマは僕を森の奥に連れて行った。木々を触りながら歩いていると
ソフサラコマの毛の色が染みのような模様の入った茶色に変わっていくのに気
づいた。毛の色が雪の上で目立っていた。突然雪の層が無くなった。雪から出
てきた草の色が僕を不安にさせた。雪の無くなった森を歩き続け、ある所で立
ち止まると、白い光が暗い道の奥で輝いていて、ソフサラコマとその中へ入っ
た。光の中を通っている間に憑いていた紫色の人魂が呻き声を上げて浄化され
ていった。ソフサラコマはその様子を見て笑みを浮かべていた。
光の道を抜けるとあるところで檻と小包が陽だまりの中で広がっていた。
「ここから君の住んでいる教会まで走っていったのさ。携帯電話を咥えてね。
辿り着いた時お腹が空き過ぎて死にそうだったから畑を荒らして人参を食っち
まったのさ。誘き出そうとしたのは半分嘘だ。悪かったね」
僕は小包を包んでいた布袋を持って、携帯電話をその中に入れて口を縛って
肩に掛けた。
再び光の道を過ぎると闇の中へ入った。僕は一度立ち止まり、辺りを見回し
た。ソフサラコマが1跳びすると、光の玉がゆっくりふわふわと飛んできて僕
の手の中に止まろうとした。僕は掌を広げてやると虫は静かに羽を休めた。ソ
フサラコマの顔をちらっと見て、虫が羽を広げるまで待っているとようやく羽
を広げた。よく見てみると天道虫だった。7つの星以外の部分が点滅していた。
天道虫はびゅーんと飛んで行って、出口を明らかにした。ソフサラコマと走っ
て行ってみると天道虫は力を失って横向きに倒れていた。羽が燃えていて死ん
でいた。手のひらに乗せようと動こうとするとソフサラコマが先に天道虫の傍
に近寄り、それに手を伸ばすと地面がガソリンと水が混ざったような綺麗な液
体となり、ソフサラコマはそれを掬って頭の上に乗せた。それを乗せると辺り
がまた暗くなり、輝き続けていた天道虫のお腹に付着した綺麗な液体は、ソフ
サラコマの頭の上から地面へと伸ばしていった。するとソフサラコマは光に包
まれて小鳥になった。周りが明るくなってすごく近い位置にある太陽まで上が
り続けた。太陽を過ぎるとその場所に止まってしまった。小鳥の影が太陽の上
にあった。僕が動くとその影は突然剥がれてしまった。
ひらひらと時間をかけて降りてきた小鳥の影を僕がキャッチすると、その影
の背景は元の森の風景に戻った。瞼を擦り、突然姿を現したソフサラコマから
受け取った小鳥の折紙を持って立ち竦んでいると、周りの土地がエレベーター
のように下降していくのに気が付いた。激しい揺れと轟音が響き、暫く降り続
けていると音も無く止まった。手元を見てみるとソフサラコマが此方を見てに
っこりしていた。じっとしていたが、耳を離してくれと言いたそうな表情をし
ていた。僕は手を離すと、ソフサラコマは跳ねながら後ろ斜めの土の壁の前に
じっとしていて、頭を抱えて左右に振り続けていた。.しソフサラコマに近付
いてみると、いつの間にかソフサラコマの首にはペンダントがぶら下がってい
た。僕が頭の中でそれに触るイメージをすると突然ペンダントが光り出した。
邪悪な光の輝きだった。点滅が激しくなるにつれてソフサラコマの頭を振る速
さが早くなると、僕の心臓の鼓動は早くなって、手のひらにペンダントを置く
想像をした。するとペンダントの輝きは止まった。僕は膝に両手をついて呼吸
を整えた。ソフサラコマはうつ伏せに倒れてしばらく気絶していた。暫くする
と僕は膝をついてソフサラコマを抱えた。ソフサラコマのペンダントには何故
か罅が入っていた。地面の下降が止まった時、立っていた方向にきれいに開か
れた穴があった。立ち上がろうとするとソフサラコマは目を.まし飛び起きて
その中へと走っていった。穴の中へ入ると通路の真ん中位の場所に松明が2末
壁に掛けてあった。ソフサラコマは後ろを振り返り、僕を見るとさらに奥へ走
っていった。僕は今後に備えて松明を持って行った。暫く進んだ先にあった階
段を降りていくと地底湖に出た。ソフサラコマは中腹の山の上で飛び跳ねてい
た。輪状の川を跨いで山の上へ上るとソフサラコマはくるくると僕の周りを回
り、山を降りて行って、更なる洞窟の入り口の前で飛び跳ねていた。僕はどっ
ちから入ってきたのか分からなくなってしまった。ソフサラコマを信じて松明
を振るって降りた先にある川の中へ突っ込んで消した。僕はソフサラコマの横
に並んで.し唇を緩めて奥へと進んだ。
通路を右へ曲がると丸い部屋に着いて、1番奥には口を「8」の字を横にし
たような形にして怒った石像があった。入り口と石像以外何もなかった。地面
は灰色の砂が.き詰められている。突然、天井から砂が落ちてきた。僕はソフ
サラコマのペンダントを石像にはめて奥の部屋へ進むものかと思ったが、そう
いう仕掛けがなかったので石像の横に腰を下ろして入り口の上の像を見ていた。
ソフサラコマは僕が腰を下ろした後も石像の顔を見つめていたが、半回転をし
てその場に腰を下ろし僕と同じ壁の像を見つめていた。ソフサラコマは暫くし
て僕の座った反対側の地面に移って腰を下ろした。僕は試しに石像の右下の8
1 ハヌワグネ時計工場 一
ある日の夜、右の耳に細かな宝石を塗した金の輪を挟め、左の耳にエメラル
ドのイヤリングをした不思議な白い兎が教会の畑を荒らし、人参を食べ尽くし
た。朝、雪の積もった森に入った後、兎を見かけたが見失ってしまい、途方に
暮れた。数日間歩き回った挙句、倒れた。すると突然兎が現れて僕の顔を見下
ろした。
「僕はソフサラコマ。よろしく」
「うん? なんで戻ってきたのか分からないけど、よろしく」
茶色の皮のサンダルに薄緑の靴下、皮の黒の長ズボンに金の腕輪、翡翠のイ
ヤリングに、茶色のコットンの胸元が茶色の紐で通してある半袖セーターを着
ている僕は、ソフサラコマにポケットから携帯電話を取り出して見せた。
「教会に届けたのは君だろう?」
「そうさ。電話とは別に僕は小包の中に入っていたんだ。自分で内側から鍵を
開けて袋を解いて、ようやく外に出られた。どうやらパラシュートで空から降
りてきたみたい。小包を伸ばして受け取り人のところを見てみると?エクアク
ス?という名前があった。エクアクスという名前は分かったけど、その後どう
したらいいか全然分からなかった。記憶が無かったのもあるけど。でも君の匂
いがなんとなく森の向こう側からしてきたから、携帯電話だけ口に挟んで駆け
出したんだ。そして、そう言えば差出人には『浮遊王国ルダルス』って書いて
あったってことを思い出した。君はどんな人だろう? って何日も何日も考え
ながら走っていたらある時急に道が開けた。教会の見える丘の上だった。思い
切って君に話しかけようと思ったけど、君だけを誘き寄せたかったから畑を荒
らしたんだ。そして君が1人になった時を狙ってポストに携帯電話を入れた」
ソフサラコマは僕を森の奥に連れて行った。木々を触りながら歩いていると
ソフサラコマの毛の色が染みのような模様の入った茶色に変わっていくのに気
づいた。毛の色が雪の上で目立っていた。突然雪の層が無くなった。雪から出
てきた草の色が僕を不安にさせた。雪の無くなった森を歩き続け、ある所で立
ち止まると、白い光が暗い道の奥で輝いていて、ソフサラコマとその中へ入っ
た。光の中を通っている間に憑いていた紫色の人魂が呻き声を上げて浄化され
ていった。ソフサラコマはその様子を見て笑みを浮かべていた。
光の道を抜けるとあるところで檻と小包が陽だまりの中で広がっていた。
「ここから君の住んでいる教会まで走っていったのさ。携帯電話を咥えてね。
辿り着いた時お腹が空き過ぎて死にそうだったから畑を荒らして人参を食っち
まったのさ。誘き出そうとしたのは半分嘘だ。悪かったね」
僕は小包を包んでいた布袋を持って、携帯電話をその中に入れて口を縛って
肩に掛けた。
再び光の道を過ぎると闇の中へ入った。僕は一度立ち止まり、辺りを見回し
た。ソフサラコマが1跳びすると、光の玉がゆっくりふわふわと飛んできて僕
の手の中に止まろうとした。僕は掌を広げてやると虫は静かに羽を休めた。ソ
フサラコマの顔をちらっと見て、虫が羽を広げるまで待っているとようやく羽
を広げた。よく見てみると天道虫だった。7つの星以外の部分が点滅していた。
天道虫はびゅーんと飛んで行って、出口を明らかにした。ソフサラコマと走っ
て行ってみると天道虫は力を失って横向きに倒れていた。羽が燃えていて死ん
でいた。手のひらに乗せようと動こうとするとソフサラコマが先に天道虫の傍
に近寄り、それに手を伸ばすと地面がガソリンと水が混ざったような綺麗な液
体となり、ソフサラコマはそれを掬って頭の上に乗せた。それを乗せると辺り
がまた暗くなり、輝き続けていた天道虫のお腹に付着した綺麗な液体は、ソフ
サラコマの頭の上から地面へと伸ばしていった。するとソフサラコマは光に包
まれて小鳥になった。周りが明るくなってすごく近い位置にある太陽まで上が
り続けた。太陽を過ぎるとその場所に止まってしまった。小鳥の影が太陽の上
にあった。僕が動くとその影は突然剥がれてしまった。
ひらひらと時間をかけて降りてきた小鳥の影を僕がキャッチすると、その影
の背景は元の森の風景に戻った。瞼を擦り、突然姿を現したソフサラコマから
受け取った小鳥の折紙を持って立ち竦んでいると、周りの土地がエレベーター
のように下降していくのに気が付いた。激しい揺れと轟音が響き、暫く降り続
けていると音も無く止まった。手元を見てみるとソフサラコマが此方を見てに
っこりしていた。じっとしていたが、耳を離してくれと言いたそうな表情をし
ていた。僕は手を離すと、ソフサラコマは跳ねながら後ろ斜めの土の壁の前に
じっとしていて、頭を抱えて左右に振り続けていた。.しソフサラコマに近付
いてみると、いつの間にかソフサラコマの首にはペンダントがぶら下がってい
た。僕が頭の中でそれに触るイメージをすると突然ペンダントが光り出した。
邪悪な光の輝きだった。点滅が激しくなるにつれてソフサラコマの頭を振る速
さが早くなると、僕の心臓の鼓動は早くなって、手のひらにペンダントを置く
想像をした。するとペンダントの輝きは止まった。僕は膝に両手をついて呼吸
を整えた。ソフサラコマはうつ伏せに倒れてしばらく気絶していた。暫くする
と僕は膝をついてソフサラコマを抱えた。ソフサラコマのペンダントには何故
か罅が入っていた。地面の下降が止まった時、立っていた方向にきれいに開か
れた穴があった。立ち上がろうとするとソフサラコマは目を.まし飛び起きて
その中へと走っていった。穴の中へ入ると通路の真ん中位の場所に松明が2末
壁に掛けてあった。ソフサラコマは後ろを振り返り、僕を見るとさらに奥へ走
っていった。僕は今後に備えて松明を持って行った。暫く進んだ先にあった階
段を降りていくと地底湖に出た。ソフサラコマは中腹の山の上で飛び跳ねてい
た。輪状の川を跨いで山の上へ上るとソフサラコマはくるくると僕の周りを回
り、山を降りて行って、更なる洞窟の入り口の前で飛び跳ねていた。僕はどっ
ちから入ってきたのか分からなくなってしまった。ソフサラコマを信じて松明
を振るって降りた先にある川の中へ突っ込んで消した。僕はソフサラコマの横
に並んで.し唇を緩めて奥へと進んだ。
通路を右へ曲がると丸い部屋に着いて、1番奥には口を「8」の字を横にし
たような形にして怒った石像があった。入り口と石像以外何もなかった。地面
は灰色の砂が.き詰められている。突然、天井から砂が落ちてきた。僕はソフ
サラコマのペンダントを石像にはめて奥の部屋へ進むものかと思ったが、そう
いう仕掛けがなかったので石像の横に腰を下ろして入り口の上の像を見ていた。
ソフサラコマは僕が腰を下ろした後も石像の顔を見つめていたが、半回転をし
てその場に腰を下ろし僕と同じ壁の像を見つめていた。ソフサラコマは暫くし
て僕の座った反対側の地面に移って腰を下ろした。僕は試しに石像の右下の8
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史