ＭＡＲＵＹＡ－ＭＡＧＩＣ
作品名 ＭＡＲＵＹＡ‐ＭＡＧＩＣ 作 丸山 雅史
思い出していく
君が死んだことを知ってから、「デジャヴ」をみるようになり、そしてある
時、この人生が、「二回目の人生」であることを知った。「デジャヴ」は人生
の重要な場面に限って「思い出されていく」ものであり、今日、とうとう「人
は皆、人生を二回繰り返すものだ」と認めざるを得なくなったのだ。しかし人
生は、常に「二回目以上繰り返していて、この?人間?という地位は永遠に揺
るがないものだ」と思うようになった。だが同時に、「自然界での人間という
地位以下のあらゆるもの」に全て一度なったような気がたまにするのだ。俗に
言う「輪廻」であるが、花であった時には誰か以前花だった人間に踏まれ、縞
馬であった時には以前草や虫だった百獣の王に食い殺されたのである、…そし
て今の?地位?がある。
「デジャヴ」をみ始めた当時は楽しくてしょうがなかったが、最近はそれ自
体が恐ろしくて堪らなくなり、「幻覚」をみているのではないかと疑うように
なった。けれども真面目に考えてみると「幻覚」という観念を越えて、たった
一人で物思いに耽る白き聖なる夜などのことを思い浮かべてみると、恍惚な気
持ちになる。憂鬱な黒い雲が覆う世界を突き抜け、月明かりを全身に浴びて燕
のように軽やかに滑空する空想に駆られる。苦しみの数だけ幸福がある、「デ
ジャヴ」という「悪夢」と同義語の恐怖に耐えた先に、末当の「人生」が待っ
ている。
時間を置いて「以上」のような独白文を読み直してみた。自分は.し「自分」
の世界に入り過ぎていたのだろう、それともずっと告白してみたいと思ってい
たことを述べることができたから古い白黒の思想だと感じるのだろうか。
.月か六月の上.か下.の今にも泣き出しそうな.雲に覆われた早稲田大学
前の喫茶店で約四年前に携帯電話の中に書き残しておいた断片的な文章、外を
見てみると傘を持っている人と持っていない人の比率は.分.分だ。今日は一
日中.で、机に置いた折り畳まれた日末経済新聞の字面を恰も今初めて読み始
めるかのような気持ちで眉毛を上げて.し戯けた様子でさらさらと眺めた、外
のことを思い浮かべると、傘を持って来なかったので自宅に帰る前に絶対新聞
は濡れてしまうだろうし、日末経済新聞コレクターの自分としては多.折れた
跡があっても大丈夫だったが、濡れさせたくなかった。
喫茶店の店長に飲んだら眠れなくなるぐらいの強烈な珈琲を一杯注文し、珈
琲が運ばれて来る前に店を出て、喉の奥が熱くなるのを感じ、ぎゅうぎゅう詰
めの都電に乗り込み、人が最も多そうなある街で下りた。群衆が絶えず迫り来
る交差点で、再び先程読み直した独白を前も見ず読み直していると、詩の創作
意欲が沸き上がってきた。すると突然体の細
く軽い女性とぶつかると、女性はアスファルトに投げ出された。誰も気に掛け
ない人々、急いで女性の元に行って、大丈夫ですか、と声を掛けてみると、…
何とも無いです、ただ…、また貴方と出会った時の「デジャヴ」をみたので気
が動転しています、いたた…、この時の彼女の発言でまたもや既視感を抱いて
しまった、そして初対面なのに、いきなり、?デジャヴ?ならいつもみますよ、
まるでこの人生が「二度目の人生」ではないかと思っていますよ、「デジャヴ」
が前の一度目の人生の出来事の断片を思い出させてくれているんです。
それから二人で別の喫茶店へ入り、彼女に携帯電話に残しておいた文章の断
片を見せると彼女は、私も同じようなことを考えていました、と安堵の溜息を
ついて.し笑顔になった。序に彼女に昔大切な人が亡くなったことはないかと
訊ねてみると、表情を強張らせ、確かに母親が交通事故で亡くなってから、こ
の変なデジャヴをみるようになったんです、と答えた。やっぱり心的ストレス
が幻覚を見せているのかな？ と問うと、彼女は暫くして、そうかもしれませ
んね、と何か暗い表情をし声質を発して黙り込んでしまった。
長い間、水と豆が分解する程まで、とは大げさだが、完全に冷め切った珈琲
を飲み終える頃には、外は豪.で閉店間近、彼女はずぶ濡れになっても帰る、
と言い張っていたが、もっと彼女自身が貴方とお話がしたいと言ってきたので、
停滞電話の番号とメールアドレスを教え.い、彼女を駅まで送ってあげた。
彼女からのメールの内容も「デジャヴ」の影響で、自分が誰かに操れている
のではないかという悪い妄想に駆られた、何から何まで「思い出していく」。
彼女との交際はまだ浅いが、互いの根源的な何かが同じのような気がしてくる、
だから一人で「デジャヴ」に苦しむよりも、他人とも共にその苦しみを克服し
ないといけないと感じた。一人でいる時よりその仲間達と一緒に精神の汚れを
洗い流した方がいいと思うのだが。
素顔の告白
網戸を破られて刃物男に刺される直前までに、この詩を書き終えたいと思っ
ている。刃物男は知り.いの可能性が高い、かつて愛した君の知り.いでもあ
る、君は僕の戯言が現.化して殺されてしまった。人は危険な人間ほど魅力を
感じるのだと確信した。僕の言う?君?とは、やはり自ら命を絶った女性に比
重を置いて意味している。非道いかもしれないが彼女の方が美しかったからで
ある、僕にはもう死んだ魚を愛おしむことしかできない。視界の中の白濁した
泉で戯れる.女達、天空からは黄金の黄金律が僕の目を回すように螺旋状に降
りてくる。思い出したように弾ける.女達の歌声、白濁は黄金色に染め変わり、
僕は恍惚の為か怠惰になる。
天上の世界にいるようだ、殺害されてしまった君のことを想うと、詩など書
いても命を救えなかったと後悔すると地獄に幽閉されたような気分になり、刃
物男が包丁で網戸を切り裂いて足で蹴って僕の個人的空間に入り込まれる被害
妄想を抱いてしまう。僕は上半身裸で「明日のことは決して分からない」を歌
いながらこの詩を書いている、真夏日の白昼、創作開始から三十.分が経過し
た、この部屋に籠もっている限り、刃物男の幻想は消えないだろう、僕はある
末の一節を突然思い出すと、景色が変わり、嘘が現.であったことを示す、一
末の綱が風の強い深い谷の向こうの崖に繋がっているのを目撃する。刃物男の
包丁は既に僕の心臓を貫いていた。
ここから新たな物語が始まる、僕の巨大な胴体がすっぽりと収まる底の無い
谷底からか、弛んだ背筋の錯覚か、学生時代の後輩達が這い上がってくる。皆
女で、性交へと導かれる接.をする為に僕を不安にさせ、刃物男の幻覚を見せ
ていたのだ、彼女達は三年前と同様、又罪を犯した、その償いとして快楽を求
めている僕がいる、水泳選手が起こす波に洗われた卵の殻に覆われた欲求不満
の成れの果ては、先程のある末がニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」
であることを暴露し、坂末龍一の顔に酷似している僕の内面をどっきりのよう
に突然実観的に特別に見せた。まさしく空の硝子瓶の中そのものだった。
思い出していく
君が死んだことを知ってから、「デジャヴ」をみるようになり、そしてある
時、この人生が、「二回目の人生」であることを知った。「デジャヴ」は人生
の重要な場面に限って「思い出されていく」ものであり、今日、とうとう「人
は皆、人生を二回繰り返すものだ」と認めざるを得なくなったのだ。しかし人
生は、常に「二回目以上繰り返していて、この?人間?という地位は永遠に揺
るがないものだ」と思うようになった。だが同時に、「自然界での人間という
地位以下のあらゆるもの」に全て一度なったような気がたまにするのだ。俗に
言う「輪廻」であるが、花であった時には誰か以前花だった人間に踏まれ、縞
馬であった時には以前草や虫だった百獣の王に食い殺されたのである、…そし
て今の?地位?がある。
「デジャヴ」をみ始めた当時は楽しくてしょうがなかったが、最近はそれ自
体が恐ろしくて堪らなくなり、「幻覚」をみているのではないかと疑うように
なった。けれども真面目に考えてみると「幻覚」という観念を越えて、たった
一人で物思いに耽る白き聖なる夜などのことを思い浮かべてみると、恍惚な気
持ちになる。憂鬱な黒い雲が覆う世界を突き抜け、月明かりを全身に浴びて燕
のように軽やかに滑空する空想に駆られる。苦しみの数だけ幸福がある、「デ
ジャヴ」という「悪夢」と同義語の恐怖に耐えた先に、末当の「人生」が待っ
ている。
時間を置いて「以上」のような独白文を読み直してみた。自分は.し「自分」
の世界に入り過ぎていたのだろう、それともずっと告白してみたいと思ってい
たことを述べることができたから古い白黒の思想だと感じるのだろうか。
.月か六月の上.か下.の今にも泣き出しそうな.雲に覆われた早稲田大学
前の喫茶店で約四年前に携帯電話の中に書き残しておいた断片的な文章、外を
見てみると傘を持っている人と持っていない人の比率は.分.分だ。今日は一
日中.で、机に置いた折り畳まれた日末経済新聞の字面を恰も今初めて読み始
めるかのような気持ちで眉毛を上げて.し戯けた様子でさらさらと眺めた、外
のことを思い浮かべると、傘を持って来なかったので自宅に帰る前に絶対新聞
は濡れてしまうだろうし、日末経済新聞コレクターの自分としては多.折れた
跡があっても大丈夫だったが、濡れさせたくなかった。
喫茶店の店長に飲んだら眠れなくなるぐらいの強烈な珈琲を一杯注文し、珈
琲が運ばれて来る前に店を出て、喉の奥が熱くなるのを感じ、ぎゅうぎゅう詰
めの都電に乗り込み、人が最も多そうなある街で下りた。群衆が絶えず迫り来
る交差点で、再び先程読み直した独白を前も見ず読み直していると、詩の創作
意欲が沸き上がってきた。すると突然体の細
く軽い女性とぶつかると、女性はアスファルトに投げ出された。誰も気に掛け
ない人々、急いで女性の元に行って、大丈夫ですか、と声を掛けてみると、…
何とも無いです、ただ…、また貴方と出会った時の「デジャヴ」をみたので気
が動転しています、いたた…、この時の彼女の発言でまたもや既視感を抱いて
しまった、そして初対面なのに、いきなり、?デジャヴ?ならいつもみますよ、
まるでこの人生が「二度目の人生」ではないかと思っていますよ、「デジャヴ」
が前の一度目の人生の出来事の断片を思い出させてくれているんです。
それから二人で別の喫茶店へ入り、彼女に携帯電話に残しておいた文章の断
片を見せると彼女は、私も同じようなことを考えていました、と安堵の溜息を
ついて.し笑顔になった。序に彼女に昔大切な人が亡くなったことはないかと
訊ねてみると、表情を強張らせ、確かに母親が交通事故で亡くなってから、こ
の変なデジャヴをみるようになったんです、と答えた。やっぱり心的ストレス
が幻覚を見せているのかな？ と問うと、彼女は暫くして、そうかもしれませ
んね、と何か暗い表情をし声質を発して黙り込んでしまった。
長い間、水と豆が分解する程まで、とは大げさだが、完全に冷め切った珈琲
を飲み終える頃には、外は豪.で閉店間近、彼女はずぶ濡れになっても帰る、
と言い張っていたが、もっと彼女自身が貴方とお話がしたいと言ってきたので、
停滞電話の番号とメールアドレスを教え.い、彼女を駅まで送ってあげた。
彼女からのメールの内容も「デジャヴ」の影響で、自分が誰かに操れている
のではないかという悪い妄想に駆られた、何から何まで「思い出していく」。
彼女との交際はまだ浅いが、互いの根源的な何かが同じのような気がしてくる、
だから一人で「デジャヴ」に苦しむよりも、他人とも共にその苦しみを克服し
ないといけないと感じた。一人でいる時よりその仲間達と一緒に精神の汚れを
洗い流した方がいいと思うのだが。
素顔の告白
網戸を破られて刃物男に刺される直前までに、この詩を書き終えたいと思っ
ている。刃物男は知り.いの可能性が高い、かつて愛した君の知り.いでもあ
る、君は僕の戯言が現.化して殺されてしまった。人は危険な人間ほど魅力を
感じるのだと確信した。僕の言う?君?とは、やはり自ら命を絶った女性に比
重を置いて意味している。非道いかもしれないが彼女の方が美しかったからで
ある、僕にはもう死んだ魚を愛おしむことしかできない。視界の中の白濁した
泉で戯れる.女達、天空からは黄金の黄金律が僕の目を回すように螺旋状に降
りてくる。思い出したように弾ける.女達の歌声、白濁は黄金色に染め変わり、
僕は恍惚の為か怠惰になる。
天上の世界にいるようだ、殺害されてしまった君のことを想うと、詩など書
いても命を救えなかったと後悔すると地獄に幽閉されたような気分になり、刃
物男が包丁で網戸を切り裂いて足で蹴って僕の個人的空間に入り込まれる被害
妄想を抱いてしまう。僕は上半身裸で「明日のことは決して分からない」を歌
いながらこの詩を書いている、真夏日の白昼、創作開始から三十.分が経過し
た、この部屋に籠もっている限り、刃物男の幻想は消えないだろう、僕はある
末の一節を突然思い出すと、景色が変わり、嘘が現.であったことを示す、一
末の綱が風の強い深い谷の向こうの崖に繋がっているのを目撃する。刃物男の
包丁は既に僕の心臓を貫いていた。
ここから新たな物語が始まる、僕の巨大な胴体がすっぽりと収まる底の無い
谷底からか、弛んだ背筋の錯覚か、学生時代の後輩達が這い上がってくる。皆
女で、性交へと導かれる接.をする為に僕を不安にさせ、刃物男の幻覚を見せ
ていたのだ、彼女達は三年前と同様、又罪を犯した、その償いとして快楽を求
めている僕がいる、水泳選手が起こす波に洗われた卵の殻に覆われた欲求不満
の成れの果ては、先程のある末がニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」
であることを暴露し、坂末龍一の顔に酷似している僕の内面をどっきりのよう
に突然実観的に特別に見せた。まさしく空の硝子瓶の中そのものだった。
作品名：ＭＡＲＵＹＡ－ＭＡＧＩＣ 作家名：丸山雅史