文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース
や宿 命のようなものがあると思うのです。その為に貴方は小説を書かなけ
ればならないのです。いつか現実で会いましょう。そして、夢の世界でのあ
の沢山の思い出を語り.い、文学について語り.い、二人で深夜の書店に忍
び込んで、一つだけ点っているライトの下でありとあらゆる文芸誌を広げて、
これからの輝かしい.来について語りましょう。僕はずっと君を忘れないで
待っているから。
【エピローグ】
君からのメールを受け取った後、急遽君のバンドは復帰第一作目として、君と
別れる間際に口ずさんだメロディーがサビのシングルが発売された。そのCD
は爆発的に大ヒットした。僕の出す雑誌が主宰している新人賞の〆切りはもう
すぐそこまで迫ってきていた。僕は推敲にラストスパートをかけ、〆切り日当
日に小説を郵便局に出した。
就職活動をまるでしていなかった僕は、四月に入ると、主に同人誌を発行し
ている会社でアルバイトとして働いた。君が出てくる夢はもう見なくなった。
新人賞の発表の連絡が来る夏まで、毎日がプレッシャーで押し潰されそうだっ
た。僕は君から貰ったメールの返信はしなかった。君と現実で再会する為に。
そしてある七月の下.の日の夜、家族で食事をしている最中に、突然電話が鳴
り、僕が我先にと出ると、なんと、それは新人賞受賞の連絡だった。僕は歓喜
に満ち溢れ、電話を握り締めたまま、涙を流しながらガッツポーズをした。僕
はとうとう自分の夢、いや、?目標?を達成したのだった。
一年後、今までの人生の中で、一番高価なスーツを着、左手の薬指には彼女
との結婚指輪をしている僕を乗せた飛行機は羽田空港に到着し、外の入り口に
止まっていた一台の黒塗りの外国車に、とある雑誌の記者に誘導されて乗り込
み、都内某所のスタジオへやって来た。僕の表情は自分でも分かるぐらい口元
が緩んでいたに違いない。そのまま雑誌に載せるセットの椅子に勧められて座
った。僕は静かに目を瞑り、眼球の生暖かい熱を瞼に感じていた。
やがて奥に下がっているスタッフ達が次々と挨拶をし始めた。
「お早うございます」
僕はゆっくりと瞼を開けると、だらしなく右手を挙げてやって来る一人の男
性がいた。男性は、僕の目を見据えたまま、二人だけの世界で見せたあの笑顔
のまま僕の向かいの椅子に座り、挨拶を交わし、握手を求めてきた。対談が始
まると、余計な世間話は話さずに、笑顔の僕は突然こう話を切り出した。
「実はですね、以前こんな不思議な夢を見たことがあるんですよ…」
了 2008年晩秋
作品名:文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース 作家名:丸山雅史