トゥプラス
ソファーの上で椛は飛び跳ねはしゃぎ出した。
「何でオレに投げるんだよ!」
輝はクッションを構えて悠樹に投げつけようとした。だが、しかし――、
「おまえ夕飯抜きな」
悠樹の冷たい一言によって中止された。
スカートなのに大また開きでぐったりソファーの上で目をつぶっている綾乃に悠樹が声をかけた。
「綾乃、生きてるか? おまえ特に何もしてないのになんで疲れてるんだよ」
ものすっごい気だるそうな感じで綾乃が目を開けた。
「精神的に疲れたの」
「おまえそんなに繊細にできてないだろ」
「アタシは繊細ですぅ〜だ」
「あのさ、星川さんに服貸してあげて欲しいんだけど」
「うん、いいよ別に。じゃ取って来るね」
だらしない格好で座っていた綾乃は、勢いよくバッと立ち上がって駆け足で洋服を自宅に取りに行った。
綾乃は靴を履くのがめんどうだったので靴下のまま玄関の外に出た。家はすぐ隣だが、普通は靴くらい履くものだ。
自分のウチに戻ってきた綾乃は、
「ただいまー!」
と元気な声で挨拶して母親を探した。
綾乃の家も輝の家と部屋の作りは全く同じで、玄関を抜けた先にダイニングがある。
「ママただいまー」
「お帰りなさい綾乃」
ニッコリと微笑んだ綾乃の母親は実に若々しい感じだった。今年で三十二歳、つまり綾乃は十五歳の時に生んだ子供ということになる。綾乃の母は若く見えるのではなく、実際に若いのだ。
「今日の夕飯いらないからね」
「また、輝くんの家でご馳走になってくるの?」
「そういうこと」
綾乃は急いだようすで自分の部屋にいってしまった。
「綾乃ちょっと……もう、あの子ったら」
綾乃の母が呼び止めようとした時にはダイニングのドアがバタンと閉まった後だった。
自分の部屋に来た綾乃はタンスを開けて適当に服をチョイスした。未空とは服のセンスが全く異なるみたいなので、どれでもいいやと言った感じである。
「下着までは別にいらないよね」
服を選び終わった綾乃は駆け足で輝の家に戻った。彼女は特に何もしていないので体力が有り余っているのだ。
輝の家に着いた綾乃はそのまま脱衣所のドアを開けて中に入った。
「星川さん、適当なところに服置いておくからね」
「ありがとう涼宮さん。ところで悠樹クンのことどう思っているの?」
「ど、どうって!?」
作品名:トゥプラス 作家名:秋月あきら(秋月瑛)