蜃気楼に恋をした。
放課後。
クラス会がお開きになり、徐々にみんな帰っていく。
彼もいつのまにか出て行って、私は内心ホッとしていた。
もしかしたら忘れているのかもしれない。好都合だ。何事もなかったふりをして帰ってしまおう。
いつもよりゆっくりと階段を下りて、学校を出る。
道路を渡って公園沿いに駅へと歩き出した所で、私は彼と目があってしまったのだった。
公園の奥側を、彼は歩いていた。
お互いを認識してほぼ同時に固まる。そりゃそうだろう。話があると言い出した相手が嬉々として帰路についているのだから。
残念ながら、彼は一度した約束を当然のように破るような男でも、忘却癖を持っているわけでも決してないのだ。
私は観念して足を止め、こちらに向かってくる彼が辿りつくのを茫然と眺めているしかなく。
ふわり。
彼から香るほろ苦い匂いに、なんだか無性に泣きたくなった。
<現実放棄失敗>
(ああ、いたい)