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ツイスター
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升田下宿の夕餉時

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「「「「いただきます」」」」
 今日の晩ご飯は、チャーハンと中華風スープ、あとはおまけのように添えられたサラダ。
 食べる寸前になって大学二年生の黄野さんが帰ってきた。これでお母さん以外は全員そろった。
「今日はチャーハンかーっ。すごいねー留宇君」
「ありがとうございます。・・・あ、黄野さん、あとで宿題教えてください」
「そこのドレッシングとって、赤木さん。・・・いいよ、何の宿題?」
「算数です。分数の問題、よく分かんなくて」
「あー算数かー・・・俺苦手だったなぁ」
「万年馬鹿とさんざん言われてたあんたが今更なによ?ていうか、分数分かる?」
「それもそうですね・・・赤木さん、僕が留宇火玖君に教えるついでです。分数、教えてあげますよ」
「・・・お前ら俺の事馬鹿にしてるだろ」
「「ばれました?」」
 にぎやかな食卓。飛び交う会話。次々と口の中へ消えるご飯。
 お母さんは、一人でご飯を食べるよりもたくさんの人間で食べる方がずっと楽しい、と口癖のようによく言う。
 おかみさんが下宿を開いたのは、大家族みたいにわいわい騒ぎながらご飯食べるのが好きで、留宇君にもそれを経験して欲しかったからじゃない?と前に青谷さんがそう僕に言ったのを思い出した。
  

 ―――僕のもう1つの悩み。それは。
「はい、俺できた」
「あっくそぅ・・・・はいあたし今!今できた!」
「僕もできました」
 三人とも、もうそろえ終わった。必然的に、僕の手元へと目線が移る。
「留宇火玖君、なかなかできないね。・・・あっ、そこ」
「あ、あー・・・そこっ、そこをね・・・あぁぁー・・・」
「ルービック、って名前なのになんでできねぇかなぁ」
 僕は、壊滅的にルービックキューブができなかった。相当小さい頃からやっているのに、できなかった。そもそも、他の三人ができすぎるのだ。何であんな魔法のようにくるくると回って、いつの間にか色がそろっているのだろう。
 晩ご飯を食べ終わったらみんなでルービックキューブをする。升田下宿の習慣である。
 留宇火玖君ができるようになるまでは、なんだかこの下宿を出る気にはなれないなぁ・・・と黄野さんはよく困ったように笑う。赤木さんは、折角ルービックなんて面白い名前なんだから、眼をつぶってもできるくらいじゃないとな、と言って励ましのつもりか背中をばんばん叩いてくる。青谷さんは、あせらずにゆっくりすればいいよ、と優しく笑いながらコツを教えてくれる。
 つまり三人とも、僕がルービックキューブをできるようになって欲しい、と思っているのだった。しかし正直なところ、僕がルービックキューブをできるようになるには、あと十年は必要だと思う。切実にそう思う。


 かくして、四十分もかけて、色がきれいにそろった3つのルービックキューブと、中途半端に三面だけ色のそろったルービックキューブが食卓に今日も並べられるのだった。
作品名:升田下宿の夕餉時 作家名:ツイスター