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文殊(もんじゅ)
文殊(もんじゅ)
novelistID. 635
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とある学校の委員会は!

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その帝王とやらは、ゴールした不動に対してこれまた良い笑顔をして。

「これからよろしくな、体育委員!」

そう言ってから、髪がぐしゃぐしゃになるくらい掻き撫でられた。
でかい手だ、とか。
力強すぎるだろ、とか。
色々思うことはあったが、不動の頭を一瞬で占めたものがある。
「あ、そっか……」
負けたということは、すなわち体育委員になってしまったのである。
そう言えば、隣のクラスの力自慢が腕相撲に三秒で負けて体育委員になったと聞いた。
隣のクラスの担任は、対決をセッティングした体育教師で……。
そこまで考えて、つながった。

「は、はめられた……っ!」

「ん、どうした?」
あぁそういや、名前言ってなかった、などと全く違うことを言いながら手を差し出される。
「矢動丸 伝馬だ、よろしくな!」
「あ……、不動 洋天です」
どこかで聞き覚えのある帝王、こと矢動丸の名前を頭の中で探ってみる。
その間に、矢動丸が力強く肩を叩いて嬉しそうに言った。
「じゃぁお前のあだ名、いだっち!」
「え、はい?」
いつの間にか決まっていたあだ名に何を言うこともできず、そのまま「いだっち」になった。
そのままこのとんでもない「帝王」のなすがまま、二年生の今も体育委員である。
連行され混乱した状態の一年生を哀れに思いながら、かつてを思い出す。
そう言えば、あの時思い出せなかった聞き覚えの件があった。
「あー、すげぇー」
軽かろうと普通の人間は高校生三人を抱えてはそうそう走れません、と遠めに見ながら考える。

「……!」

思い出した。
というか、あの時思い出せなかったのが不思議なくらいである。
不動が市の陸上記録会で、どうしても破れなかったタイムがある。
100mの最高タイムだけが、どうしても破れなかったのだ。
なぜだかそれだけやたらと超人じみていて、記憶に残っている。
思い出せなかったのは、あの時それくらい呆然としていたからだろうか。
『てか、あれ本当のタイムだったのか』
差はいくらか縮まったかもしれないが、まだ越せない。
悔しさというか、やるせなさが心ににじんでくる。


「いだーっち!」


「え、うわぁぁぁ!!」
抱えて走った本人よりも、一年生が疲労困憊になっている状態を見て思わず叫ぶ。
なんだかにじんできたものも、全て吹っ飛んだ。
「いやぁ、結構楽しかった!」