化学反応ABC
「先生さ、」
「なに?」
「結構かっこいいんだよね。2年生とかにも人気なんすよ?去年の文化祭のなんだっけ・・イケメン先生グランプリで2位だったし?」
「オッサンが多いうちの学校で2位でもなぁ」
「あと割と授業も面白いと思いますよ!俺寝てるけど!」
うわ、信憑性ねー。
「もし俺がその女子だったとしたら、告白されたら嬉しいと思いますけど」
「・・・へぇ」
「あぁでもタイプとかあるから人それぞれってやつですね」
「ま、そりゃそうだよね・・・それでさ、」
「へ?」
どかーん
突然鳴った爆音のありかを探して振り向くと半分以上紺色が侵食した空に赤い光がきらきらと少しずつ消えながら落ちていく途中だった。
「・・花火」
「確か今日は花火大会だね」
「ああいう色ってカルシウム?とかでできるんすよねー」
「そうそう。カリウムナトリウムマグネシウム。寝てる割には覚えてるじゃん」
「実験は好きなんですよ」
また一発、二発と打ち出されて、緑だったり白だったり、いろんな色がきらきら光る。
「なぁ和馬くん」
「はい?」
「どうすれば俺の思いってやつは伝わるかな。
今までも気づかれないながら地道に努力してんだけどさ、先生」
「んー・・・そっすね・・・」
そんな話をしている間も、音と光は止まない。
「俺だったら、こういう感じで花火見ながらとか、告られたら嬉しいかなぁと思いますけど。
女子の気持ちってのはわかんねぇけど、俺としては花火大好きなんで!」
「そんなもん?」
「そんなもんじゃないですか?」
「そっかな」
「・・・だから!俺に女子の気持ちなんかわかりませんてば!」
「ぐふっ」
ビニール袋を振り回してアタック。
不安そうな顔するんだったら最初から男の俺なんかに相談しなきゃいいのに。
鶴屋先生には言ってないけど、そんなね、彼女とかいたことあんまりないし。
「・・結果出たら、俺にも教えてくださいよ」
数歩先を歩いて、痛い痛い言ってる先生を振り返ると、先生はすっげマジな顔して立っていた。
「今それじゃばっちりのロケーションじゃん?」
「まぁ、俺からしたら」
「じゃ、いいじゃん」
「なんで俺?あっ予行練習ですか!?」
「・・・だぁ!ほんとどこまで鈍いんだよお前!」
「さっきから何なんですか!一体何したいの先生!」
本当に呆れてる、みたいな顔をして。
仕方ねーなとでも言いそうで、ため息をついて吐き出すように。
「だから!俺が好きなのは、」
そこまで聞いて、俺の目に映ったのは、打ち上げられ続ける化学反応の賜物である花火でもなく、いつもの通学路でもなく、困ったように笑う普段の鶴屋先生でもなかった。
脳内でフラッシュバックする、ドアップの先生の顔と、一瞬だった柔らかい感触。
頭ん中が花火みたいにちかちかしてる、
「和馬くんなんだよ!」
まるで、化学反応でも起きたみたいに。