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化学反応ABC

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「ちょっとばかし話を聞いてもらってもいいかなぁ」
「なんですかー」
「こないだうちのクラスの女子にさぁー、男心的なものを相談されたんだけどさ、そんな女子高生のお悩みなんか聞くくらいなら自分の悩みを解決したいよねっていう。
あのさぁ和馬くんわかる?俺が今までこうしてやってこれたのは女子高生っていうブランドにいまいち興味がなかったからなのよ」
「先生はおっぱい星人ですからねー。つか悩みなんかあったんですか」
「し、失礼な!先生って意外と大変なんだぞ!」


向こうの空が少しずつ暗くなり始めた頃。
俺は制服のままで、鶴屋先生はいつも着ている白衣を脱いで私服姿で、いつもの学校ではなくひたすら並木道を歩いていた。
来るべき文化祭に備えてクラスの副担である先生と、なんと36分の1の確率でじゃんけんに負けた俺とで買出しってわけだ。たこやきをやることになってるので小麦粉とかタコとかねぎとか足りない分まぁいろいろ。


「それで俺に愚痴っちゃうわけですか」
「毎回ごめんなー」
「・・・聞いてくれる彼女でも作ったらどうですか、もういい年でしょーに」
「確かにもう32だけどさぁ・・・って何言わせんの!」


最初はなんでかあんまり好印象はなかったんだけど、鶴屋先生の教科(化学)で一桁台の赤点をたたきだしてしまったときの補習はワンツーフィニッシュ?補習だった。(マンツーマンか)
それでちょこちょこ話すようになって、3年のクラスではなんと副担になったりなんかして。
思春期的バカ話とかしたりする悪友とか言っちゃうやつなんだろーか、俺と先生。


「で?なんすか?」
「・・やー、実はねぇ、先生好きな人いんだよ」
「まじですか!えっちょっと先生それは頑張んねぇと!でも不毛ぽいですね!」
「言う前に不毛とか決め付けるのナシだよ和馬くん!」
「てことは、恋のお悩みなわけですかー」
「そーだよ」
「たかが18の小僧に聞くことじゃないと思いますけど俺でよければ相談乗っちゃいますよ!?」


教師の恋愛ってどんなものなんだろう、少なくとも俺には興味があった。
他校の先生かもしれないし、もしかしたらうちの学内にいるのかもしれないとか考えるとちょっとテンションがあがる、悲しきかな男子高校生の性ってやつだ。


「まじに聞いてくれんの?」
「そりゃもう、どーんと。ささ、話してくださいな」
「あー・・・そいつがね、」
「先生ちょい待って!その好きな人?のなんか・・・大体の性格とか教えてよ。差し支えない範囲でいいからさぁ」
「えぇ?」


ほら、そういうの分かったほうがアドバイスもしやすいっていうか、先生のその子に対する気持ちも分かるというか。
そんなことを説明すると先生は少し照れくさそうに話しはじめた。


「んーと・・頭は悪い、よ。俺の学生時代と同じくらいかそれ以上かもな」
「あらまぁ」
「バカな生徒ほど可愛いってゆうじゃん」
「・・・・え、先生の好きな人って生徒なの!?」
「あー・・・・・・うん、否定できない」
「まじですか!うわぁ禁断!」
「はーるのぉーこもれびのぉーなかにぃー、ってやつだね」


確かそれは数年前のドラマの主題歌で。高校の先生と女子生徒がなんか禁断の愛、みたいな話だったような気がする。現実問題ありえるかもしれない話だけど、少なくとも今俺に話しただけで動揺しまくっている鶴屋先生には9割ありえない話だ。うんうん。


「あとはどのような感じですか」
「んー・・・人気者。クラスの中心にいて、隣に座ったら誰でも友達、みたいな奴」
「愛されおバカってやつかぁ・・・」


そんなタイプのやつうちの学年にいたっけか。


「そうそんな感じ。あとはやたらと俺に絡むくせに授業中はもれなく爆睡してる感じ?
それからドがつくくらい鈍感」
「ふむふむ。なかなかの強敵に恋しちまいましたね」


アピールしてるのに気づかれないってやつはなかなかにきついことだろうと思う。
だって届かないんだもん。そのうえ鈍感とはかなりの強敵だ。


「もはやラスボス並の難易度ですね」


そうこうしてる間にもスーパーに到着して、女子から預かったメモを見ながら買うべきものをカゴの中に放り込んでいく。
会計も何もかも済ませて店を出ようとすると大量の小麦粉はもとよりタコの足だったり漫画よろしく袋の外にネギがはみ出していたりと荷物はくる時の十数倍重くなっていた。


「そうなのよ・・・ねぇ和馬くん、どうしたら気づいてもらえるかなぁ」


そう呟いた鶴屋先生の、ほとんど俺と同じ位置にある横顔がなんだか少し寂しそうな顔が苦笑いをつくった。
ほんとに恋しちゃってんだなぁ、となぜかこっちまで胸が苦しくなった。





作品名:化学反応ABC 作家名:蜜井