我侭姫と下僕の騎士
フィリーを呼び寄せることは、実は不可能ではない。女のフィリーであれば、クレアが美貌で夫を篭絡し、気心の知れた使用人を呼び寄せたいとねだれば良いだけだ。
「でも、イグニス様とクロード様は無理です」
「……何故?」
「花嫁が愛人を二人も連れて行って、喜ばれるはずがありません」
真実ではないが、客観的にはそう見えるのだと告げるフィリーに、クレアは珍しくも声を荒げて抗議した。
「二人は愛人じゃないわ。わたしの騎士よ」
「それは良く存じております」
フィリーから見ても、二人は姫君と騎士という立場を弁えている。クロードがクレアに対して多少気安い接し方をするのは、幼馴染でもあり、イグニスを巡る喧嘩友達でもあるからだ。
まかり間違っても、クレアと艶めいた関係にあるわけではない。
「ですが、事実はどうあれ、花嫁が生家から男性を連れて行くことは、そう見えるのです」
言い聞かせるようなフィリーの説明に、クレアはイグニスを振り仰ぐ。瑠璃色の瞳と目が合うと、イグニスは静かに頷いた。
「私とクロードは、姫様とご一緒できません」
表情を消したイグニスに、クレアは漠然とした不安に包まれた。