顔 上巻
事件から4 年が経過したある日のことだった。
匿名の情報が封書で送りつけられた。
中には、逃走時の一之瀬のものとは思えない
顔写真がA4版に拡大されて入っていた。
封書の送り主は不明。
投函されたのは、捜査本部の置かれた港南警察署内であった。
写真の裏にはひとこと「一之瀬は顔を変えている」と
鉛筆で殴り書きされていた。
その日のうちに、報道各局にその写真が回され、日夜、報道が繰り返された。
すると、反応が異常に集まり、多くの目撃情報が寄せられた。
その多くが、九州からのものであった。
最新の情報から、博多港に集結していた捜査陣は、
釜山行きフェリー乗り場の従業員からの通報により、
一之瀬を遺体損壊事件の容疑者として獲捕した。
一之瀬は抵抗することなく、その場で一之瀬本人であることを認め、
逮捕となった。
その日の最終の新幹線で捜査本部の置かれた横浜港南警察署まで移送された。
一之瀬は、報道陣でごった返す博多駅から、一言も話さなかった。
報道各局では、連日、一之瀬逮捕の報道で明け暮れた。
一之瀬の逮捕を喜ぶロザンナさんの両親の声。
逮捕現場となった博多港の職員の談話。
当惑しきった一之瀬の両親の目隠し会見など。