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顔 上巻

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ヤツが・・東京に出向くときはオレは、オレはさ。自由だった。
けど、凄い山の中だったから・・ま、幽閉されていたようなものさ。
最初の一ヶ月は、検査だのナンだの。
ま、遊びみたいなものだった。

それで・・いよいよ手術の日になった。
なんでも、顔面神経を一度全部切り離して復旧する状態を記録するらしい。
それは、それで。どうでもよかった。オレ、オレはさ。
とにかく顔の傷を消したかったんだ。

顔面の神経をさ、一本づつ切り離していくような手術は
長いこと続いたらしい。
ヤツは麻酔の腕はよかったみたいで、
闇医者のようなことはなかったよ。
ホントに憶えていないぐらいさ。
ただ、術後は長かったな。3ヶ月ほど、包帯を巻かれ続けた。
当初は、口も満足に開けられなかったからさ。
流動食だけで生きていた。

偶にヤツが帰った跡で、無性に顔が痒くなってさ。
自分で包帯を外したんだ。
術後初めてみる自分の顔を見て、気がおかしくなった。
顔が。顔全体がとろけたように、垂れ下がっていた。

で、ヤツに食って掛かったんだが。
ヤツは笑って云うんだ。
暫くすれば、顔面神経が落ち着き、元の顔に戻るって。

だが、なかなか戻ることは無かった。
それで訝しがって。
いまじゃ笑い話だがな。
作品名:顔 上巻 作家名:平岩隆