顔 上巻
それにさ、関西弁って・・きついんだよね。
耳についちゃってさ。精神的に参っちゃった。
で、東京に舞い戻ったのさ。
あ、学生の頃、まわりに劇団員みたいのがいて。
あいつら、自分らの劇の公演をするんだって、妙に熱い奴らでさ。
正直、近くにいると暑苦しくて困るんだけど付き合えばイイヤツばかりだった。
あ、オレ。オレはさ、学生時代はバンドやってたんだ。
で、それまで行ったことはなかったが、下北沢あたりに行ってみた。
そうするとさ。路地裏の小汚い喫茶店みたいなところでさ。
そういう奴らがたむろしていたんだよな。
そしたらさ、やっぱり貧乏なんだよな、劇団員ってさ。
青っ白い顔したヤツがさ。
どうも聞いてると演習家志望の学生らしいんだが。
舞台の費用を作るんで、血を売っているらしいんだな。
大昔の話だろ、とか思うなよな。
これだけの不景気なんだ。そういうヤツも出てくるさ。
そいつにさ。なんか大学の助手みたいな・・白衣着ていたから
あの辺の大学じゃないかなって。
なんか、迫っているんだよな、決断しろよって感じで。
そしたら白衣のヤツが、指を3本立ててさ。
即座にそれが30 万じゃなくて300 万であることは察しがついた。
そして、それが単なる売血でないことも。