顔 上巻
ドヤに泊まってさ。酷いところさ。
部屋で寝ているだけで、身包み剥がれちまうような。
だが、居心地は悪くなかった。
本当に、他人には関係を持ちたがらない場所だったからね。
この不況だから、毎日のように、余所からあの街に行くんだ。
だから寝床の確保も結構熾烈だったな。
で、お決まりのように。毎日、あそこでは人が死んでいくんだ。
あぁ?フツウに、路上で。
「高田隆名義で土木会社に従業員として働いていた?」
大川は、捜査資料から得た情報を提示した。
すると一之瀬は、感心そうに情報の書かれた書類に目を通した。
そぅか、たいしたもんだよ。
なるほど「高田隆」って名前で捜査したんだな。
いまさらだが・・その名前には、なんの意味も無い。
だって、今のオレは。オレはさ。
当時の顔じゃない、傷ッツラだったんだから。