顔 上巻
⑩二日目 #2
傾き始めた冬の日差しが鉄格子のはまった窓ガラスから差し込んでいた。
大川には、定年近い自分の姿を重ねて見えた。
なんらの潤いもない、冷たいコンクリートの壁が、寂しく感じられた。
だが、一之瀬は、背にしたその光景を見ることもできなかった。
一之瀬の鼻の引っかき傷は化膿しているようだった。
「おまえ、闇医者、殺したのか?」
埒の明かない状況に、大川は力無くストレートに切り出した。
一之瀬は、他人事のように・・事実、他人事なのかもしれないが。
表情ひとつ変える事はなかったが、口を開いた。
え?あの闇医者、殺されたの?
ま、悪いヤツだからな。殺されて当然かもな~。
ふ~ん、あっそう。
オレ?オレは殺してないさ。知らないな~。
想定内の答えだった。そのことに、なんら期待も何もなかった。
ルーティーンな問答は、時間の無駄なだけではなく、ヤル気がそがれる。
いや、そもそもヤル気なんてあったのか。
「殺されて当然?」