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顔 上巻

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横浜拘置支所第二取調室。
鉄格子のはまった窓の外は鉛色の雲が垂れ込めていた。
部屋の真ん中には大きな机が置いてあり、向かい合わせに置かれた椅子。
部屋の端には小さな机があった。
壁は白く、天井に埋め込まれた蛍光灯の本数が多いのか明るく見えた。
左側の壁は、大きな鏡が並べられていて。
マジックミラーで。その向こうには中井がいるのだろう。

いつもなら。
いつもの所轄の取調室なら、電気スタンドがあるのにな。
大川はそんなことを思いながら。妙に明るく感じる蛍光灯は。
“取調室の可視化“・・ということは。
マジックミラーの向こうにはビデオカメラが
こちらを向いているということか。

大川は、一度深呼吸をすると。
刑務官に腰紐を捕まれたままの一之瀬が、取調室に入ってきた。
大川の前の椅子に座った一之瀬の顔は、痩せこけ、
出回った手配写真とも違った印象を受けた。
無精ひげの一之瀬は、大川の顔を見るなり、うなだれた。

「食事を取るようになったそうじゃないか・・・。」
大川は、いつもの声色からオクターブ上げたような声を出してみた。
すかさず小山は一之瀬に、絡みを入れた。
「メシ喰った分は、なんか言えよなァ~ッ!」
しかし一之瀬は、動じることも無く、力無い目付きのまま黙っていた。

そのまま、ゆっくりとした呼吸のまま、一之瀬は取り調べの刑事たちと
そのうつろな視線を合わせることも無く、ゆっくりとした時間が流れた。
マジックミラー越しの窓の無い部屋で、中井は「いつものことよ。」と
思いながら、ビデオの録画スイッチを入れた。

作品名:顔 上巻 作家名:平岩隆