顔 上巻
④初日 #1
二人は、翌日、横浜拘置支所に向かった。
京浜急行の駅を降り、港南警察署の前を通り、角を曲がると正門に出た。
イチョウの葉が黄色く色づいていたが、大半は既に地面に落ちていた。
がらんとした捜査陣の部屋に、如何にもやる気のなさそうな中肉中背の
これといって特徴の無い男が出迎えた。
「今日は、遠いところ、どうも。ま、気楽にやってください。」
中井というこの刑事、捜査陣には当初から関わっていたが、逮捕からの
このひと月、一之瀬の黙秘には、うんざりしていたようだった。
「こんなこと、はじめてなもので・・・」大川が握手すると
「異例の事態ですよ、野郎、なにが気に食わないのか、
だんまりきめこみやがって。しかも・・ご存知のように。
外人さんの事件だから、県警から、警察庁のお偉方まで
やんやと騒ぎましてね。」
小山が握手すると。
「あぁ、こういう若い女の刑事さんがいると、奴も話す気になるかな。」
中井が誉めたつもりで冗談めかして言うと
「見た通り、女の武器はありませんから。」
とツッケンドンに返した。
大川は雰囲気を変えるように思い尋ねた。
「で、ヤッコさん、まだ点滴だけで・・生きてるんですか?」
中井は小さく首を振って答えた。
「いやぁ、それが。昨日から・・喰うわ、喰うわ。オカワリもしてます。
なにが心境の変化に繋がったのか・・」
大川は、弛んだ頬肉を動かして見せた。
「じゃぁ、ヤッコさんは・・元気なんだ・・」