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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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 その背中に親分が声をかける。
「おい、ちょっと待ちな」
「なんですかい?」
 振り返ったお蝶の瞳に映る親分は人が代わったように、手をすり合わせて偽善者顔を作っていた。
「その腕を買おうじゃないか、ウチの用心棒としてどうだい?」
「ご生憎様で、あたいらは旅芸人。喧嘩沙汰を商売にしておりやせん」
 二階から降りてくる人の気配がした。
 子分の誰かが声をあげる。
「姐さん!」
 紺色の着物を着た艶やかな女が、裾から生足を覗かせながら降りてくる。姉御のお紺だ。
「ウチの若いのを可愛がってくれたそうだね。それだけの武芸の腕がありゃ、他の芸も達者だろうよ。あたしが座敷を紹介いてやろうじゃないか」
「ありがとうございやす」
 礼を述べるお蝶を見ながら、親分は口を挟む。
「おいおい、おまえ……」
「あんた、なにか文句でもあるのかい?」
 と、切れ長な眼のお紺に睨まれ、親分は怯えたように口を慎んだ。
 壊れた戸口を不審そうに見ながら、若い娘を連れた男が玄関に上がってきた。男の方はお蝶にすぐ気がついたようだ。
「あんたは……」
 男と娘は山小屋で出会った二人だった。
 連れの娘は畳に寝かされている、同じ年頃の娘の死体を見つめている。これから足を踏み込む世界の成れ果てだ。
 お蝶と黒子はすでに通りに出ていた。屋内にいる親分と姉御に頭を下げて立ち去った。
 乱暴に運ばれていく娘の死体。それを見る娘の眼は憎悪を湛えていた。