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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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「もう十分にお前さん恐怖を味わいなすった。まだ恐怖を味わいやすかい? それとも刹那に殺して欲しいと、あたいに土下座でもしやすかね?」
 お蝶はゆっくりと目を閉じた。
 それがきっかけで子分たちが逃げ出した。親分も逃げ出したが、それを咎める子分は誰一人いないだろう。逃げるが勝ちというが、まさに今がそれだと子分も親分も思ったに違いない。
 勝ち目のない勝負を選ぶ誉れもあるが、犬死となれば話は別だ。
 お蝶は親分の背中に不吉な言葉を投げかけた。
「逃げるんですかい? 逃げられませんぜ?」
 囲まれていたのはお蝶たちではなかった。本当に捕らわれ囲まれていたのは、親分たちであった。
 それは死の罠だ。
 ところてんを押し出すように、男たちが細切れにされた。お蝶も黒子も指一つ動かしていない。男たちは自ら死の罠に飛び込み、鋭利な?網?によって細切れにされたのだ。
 目の前で細切れになった肉塊を見て、後続の男は足を止めようとしたが、その後ろから押し寄せる男によって、次々と将棋倒しになってしまった。
 細切れになって事切れたものは、まだ幸運だろう。中途半端に切られ、生きながらえた者の苦しみは壮絶だ。
 発狂した一人の男がお蝶に襲い掛かった。
 お蝶はひらりと躱し、猪突猛進の男はそのまま黒子に飛び込んだ。
 葛籠の上に座る黒子は動かない。男が自分のところまでたどり着けないと踏んだのだ。
 その予想通り、男は途中で腹から地面に落ちた。
 それはなぜか?
 男の膝はすでに断ち切られ、男は勢いだけで黒子に飛び込んでいたのだ。
 悲惨な光景に血の香りが立ち込めた。
 生き残った者たちを、お蝶はゆっくりと見回した。
「そろそろご覚悟をお決めになったらどうですかい?」
 この場に立っている者の中には親分もいた。
 震える親分の手には短銃が握られている。
 地面に向いていた銃口が、震えながら上に上げられた。
 銃口の先でお蝶は堂々と立っていた。撃てと言わんばかりだ。
「アァァァァァッ!」
 野獣のような雄叫びを上げて親分は引き金を引いた。
 銃弾は明後日の方向に飛び、快晴の空に消えていった。
 お蝶の表情はずっと変わっていない。魔性の笑みを浮かべている。
「銃なんてものはそうそう当たるもんじゃありやせんよ。そんなに震えていては余計にってもんです。あたいの業は百発百中ですがね」