夜桜お蝶~艶劇乱舞~
嵐の夜道を歩きながらお紺は気を静めていった。
面を被ったように荒れた気性を隠し、お紺は何食わぬ顔で天狐組みに戻って来た。
すると子分たちは慌てふためいていた。
「姐さん! 一大事ですぜ、早く奥の部屋に来てください」
子分に連れられ奥の部屋にいくと、片耳に布を当てられた男が呻いていた。傍には親分も付き添っている。
「畜生め、誰にやられたかはっきり言え!」
親分の怒号が子分たちの耳を振るわせた。
部屋に入ってきたお紺は冷静を装って辺りの子分たちを見回した。
「いったいなにがあったんだい?」
子分たちが黙り込む中、答えたのは親分だった。
「いや、それが……わからねぇんだ」
「わからないってどういうことだい!」
お紺の米神に血管が浮いた。それを見た子分たちは震え上がり、親分まで腰が引けている。
「だってよぉ、おまえ。帰ってきてからこの状態で話も聞けねぇんだ」
「ウチの組は役立たずばっかりだね、おまえさんもだよ」
お紺を上から親分を見下ろした。
町民や子分たちには強い親分も、お紺だけには頭が上がらない。
「役立たずなんて言われてもよ、いちよう子分たちを探しに出したんだぜ」
女郎を探しに出た子分たちの中で、ただひとり帰ってきたのは片耳を失った男だけ。他の子分を探しに、新たに子分たちを探しに出したが、一向に見つかったという連絡はない。
外は嵐だ。それに夜だ。外に出された子分たちも嫌々だろうに。
お紺は親分の顔をぎろりと見た。
「で、どうなったんだい?」
「なにもない。さっき一度帰ってきた子分に話を聞いたが、前に出た子分たちの足取りをまったく掴めんそうだ」
「嵐の晩に隣村まで女郎一人を追う根性はウチの若いもんにはないだろ? 真昼間だって途中で戻ってくるさ。じゃあどこに消えたのさ? 死んでるにしても、大勢が死んでりゃあ、どこかに痕跡が残ってるもんだろ。まさか神隠しにでもあったというのかい?」
片耳を失った男から察するに、なにか暴力沙汰があったのは確かだろう。と、お紺は察したが、自分でも言ったように屍体すら出ないことが頭を悩ませる。
まさか葛籠に吸い込まれたなど誰が想像しようか。
片耳を失った男は、それからひと言も発せず、眠ることすらできずに恐怖に震え続けた。
雨の中を走り回った子分たちも、なんの収穫もないまま帰ってきた。
作品名:夜桜お蝶~艶劇乱舞~ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)