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MURDER

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 胸を狙った筈のナイフが、誠の腹部に刺さっていた。ナイフを握り締めているのは、確かに自分の手だ。が……。
「……痛っ……」
 その手には、誠の手が添えられているではないか!
「胸、狙うなよ。俺、死んじゃうじゃん」
 痛そうな息遣いの中、誠が微笑む。
 一思いに一撃で。と思っていたナイフの軌道は、あわやと言う所で、力一杯の誠の導きで腹部へと到着地点を変えていた。
「……お前、今……」
 あっけに取られる実の手から力が抜ける。
「何?」
 言いながら実の手を払いのけ、静かにナイフを抜き取る誠。
「ワザと……自分を……刺した?」
 問い掛けた実の顔が青ざめていく。抜かれたナイフが、自分に向いていた。
「ちゃんと内臓を避けてね」
 誠の冷めた声が響く。
「正当防衛、成立?」
 クスクスと笑いながら、誠が続ける。
「実、俺達、“親友”だよな?」
 冷たい声に、実が頷いた。
 その瞬間、胸が痛みと共に熱くなる。視線を静かに下に移す。
「誠……?」
 ナイフが胸に刺さっていた。なんの迷いもなしに……。
「言ったろ、“親と揉めた”って」
 崩れ落ちる実。
 それを見下ろして、誠の口元が笑った。
「持ってってよ“殺人罪”」

 赤いパトライトが、ビルの窓下に点滅していた。



作品名:MURDER 作家名:竹本 緒