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終われない毎日に見る夢のような日々

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ほんとはね、と佐和ちゃんは言った。
「ほんとはね、みのりにも、ここは卒業まで教えないでおこうと思ってたんだ。それで、卒業のときに教えて、卒業した後もここで会おうね、って、言うつもりだった。でも、」みのり、最近ヘンだから。佐和ちゃんのやわらかな声がふわりと舞って空に消える。私の視界には青い青い空だけが映っていた。佐和ちゃんもそうなんだろうか。佐和ちゃんの大きな瞳にもやっぱり、青い青い空だけが映りこんでいるんだろうか。草原に寝転がった姿勢じゃそれは見えない。ただ、目に映らない佐和ちゃんの声だけが私の鼓膜を揺らしていく。「みのり、」見えない佐和ちゃんの声が聞こえる。「みのりわたしに隠し事があるんでしょう。わかるよ。だって親友だもん。…っていうか、みのりわかりやすいしずっと一緒にいたら、わかる」そこで佐和ちゃんが息を吸い込む気配を感じた。「でも、みのりが言いたくないことだったら言わなくていいよ。なんだったら一生言わなくてもいいし。でも、言いたくなったら、言ってね」みのりはわたしのとくべつだからねっ!そう言って佐和ちゃんは隣からタックルをかましてきた。突然の衝撃にめがねがずれる。そこでようやく空から視線をはずして、隣にいる佐和ちゃんを見ると、佐和ちゃんはこまったように笑っていた。「佐和ちゃん、私…」「だいじなこと1人で抱え込もうとするの、みのりの悪いクセだよ」たまには頼ってよね。そう言って佐和ちゃんはむくれたように頬を膨らませた。ああ、そうか。そうだったんだ。私はようやく大切なことに気づく。私はいままで、「終わりがあるなら終わりが来る前に壊せばいい」とそればかり考えていた。そうすれば終わりは見なくて済むと。だけど、ちがうじゃないか。私の生きてきた証。腕の傷。その分だけ私は生きていて、それは、自分から始めていなくても何かが始まってきた証拠で、だから目の前にこんなにもまぶしい佐和ちゃんがいる。


あの女の言葉を思い出す。「ものごとにはかならず終わりがあるのよ」そうだ。だからなんだ。終わりが見えることは怖い。今のこの一瞬、それが終わってゆくこと、それはものすごく怖いことだ。だけど、だからといって、その終わる瞬間だけを見据えて震えて過ごして何になるだろう。私はそうしているうちに佐和ちゃんをうしなうことのほうがずっと怖い。好きになればなるほど、溺れるように怖さは増した。それに比例するように私自身への恐れも。スカートのポケットに常時入れっぱなしにしているカッターナイフで何度彼女を壊そうと思っただろう。私を壊して彼女も壊してしまおうとしただろう。けれどそれはちがうのだ。まちがっているのだ。怖いのはそんな私だ。この一瞬が一瞬でしかなくて、すぐに消えてしまうのなら、私は彼女を抱きしめて眠りたい。せめて今だけ、彼女を抱きしめて抱きしめられて、お互いを最大限に感じながら眠りたい。出逢えてよかったと、生まれてきてよかったと心の底から言えるように。
「佐和ちゃん」
ありがとう、そう言いたくて横を見ると、佐和ちゃんはゆるく私の手を掴んだまま、すうすうと眠りについていた。ふっと笑みが落ちる。
「ありがとう」
もういちど、聞こえていないだろう耳元につぶやいて、私はその細い手をしっかりと握り締めた。