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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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――ところで。
「ん?」
 紅也は、先を歩いているその足を止めるでもなく、振り返る。さらさらと揺れるその髪に、木漏れ陽が降り注ぐ。その様は、まるで一枚の絵画のようだった。――……無論、俺はそれに見とれたりなどはしないが。
「何かな? 雨夜君」
 後ろを向いたまま、つまづきもせずに歩道を歩くといった芸当を、難なくこなす紅也。……こいつ、背中に目でもあるんじゃないのか。
「失礼なことばかり考えるんだな、君は」
 う。
 読まれてた、らしい。
「にしても、一枚の絵画、って。意外とロマンチストだね。……僕、そんなに綺麗かな?」
――……気色悪いから、止めろ。
「でも、造形には自身あるんだー」
 何せ自分で造ったカラダだからね、と。紅也は笑う。
――まあ、それは良いとして。
 俺は話を戻す。
――なんだって急に、『通り魔退治』なんて、やる気になったんだ?
「ああ……。簡単だよ。ちょっと興味があってね、事件現場を見て回ってきたんだ――……」
――い、いつの間に。
「君が病院のベッドですやすや眠っている間に、だよ」
――…………。
「まあそれはともかくとして。事件現場に、あいつらの痕跡が残っていたんだ」
――こんせき……。
「うん、そうだね……、『気配』とでもいうのか、そこに、あいつらが確かにいたという、確信ともいえる」
――あいつら、っていうのは、ひょっとして『天使』か?
「うん、当たり前だろう? まさかそれ以外の何かだと思った?」
――……いや。
「なら良いけどね」
 紅也は一人肯いて、話を続ける。
「つまり、通り魔は『天使』……もしくは、『天使』に操られている、人間」
――……ふうん。
「だから、それを捕まえて、どうにかする」
――どうにかする、って、どうするんだ?
 俺は、紅也がこの間一人の天使を『喰らった』コトを思い出す。どうやって喰ったのかは知らないが、だが紅也がそいつを喰ったことに間違いはないだろう。……今回も、喰うのだろうか……?
「それは、相手の出方次第さ。……この間、僕が喰らった『天使』を、覚えているでしょう? あの『天使』だって、最初から喰らう気でいたわけじゃないしね」
――そう……だったのか?
「うん。そんな失礼で無粋な、『天使』じみた考え、持つはずがない。最初はね、きちんと交渉したんだよ」
――交渉?
「そう。やっぱり、対話で解決できるなら、その方が良いじゃない」
 でも――、と。
 紅也はため息混じりに、呆れ顔で後を続けた。
「やっぱり、『天使』は『天使』だったよ。僕が雪花ちゃんとの契約を破棄してくれるよう、懇切丁寧に頼み込んでいた時、急にね――」
――なんだ、……襲い掛かってきた、とか?
「いや……」
 とてつもなく憂鬱そうに。
 紅也は暗く沈んだ表情で、言いたくなさそうに、声の調子を下げた。
「『天使』の仲間にならないか、って……」
 誘われてね、と。
「勿論断ったさ。でも向こうさん、しつこいんだよね……」
――悪魔であるお前を、『天使』側に?
 うん、と肯く紅也。
「僕が拒否したら、次は無理やり言いくるめようと、『神』の必要性について力説し始めてさ――……もう良いから、って話し合いを再開させようとしても聞かないし」
――……それは、大変だったな……。
 紅也ははあっと長くため息をついた。
「挙句の果てには色仕掛けときたもんだ……。『天使』として生まれ付いてたかだか何千年かの若輩者に、僕が屈するとでも思ったのかね」
――は? 色仕掛け……?
「そ。しかも向こう、男だよ? 本当、『天使』も堕ちる所まで堕ちたものさ。僕は伊達に長く生きていないっていうのに。むかついちゃったから、名乗ってびびらせようと思ったけど……」
 は、と紅也は鼻で笑う。
「ま・さ・か――僕のことを知らない『天使』がいたとはね」
 肩をすくめて、馬鹿にしたように笑う紅也。……こいつ、そこまで有名な悪魔だったのか?
「まったく……それで誘惑するんだから、頭が足りないというか何というか。で、話し合いも空しく、僕が喰らう羽目になっちゃったんだなー」
 あはは、と笑う紅也。
 残忍な笑みである。
「『天使』ともあろうものが……敵対する悪魔の中でも注意すべきこの僕を、知らないなんてね……。案外、今回の神を巡る戦争は、あっけなく幕切れとなるかも、ね」
――戦争、か。
「うん。ああ……、でも、あくまで『今回は』、だよ。前にも言ったけど、『天使』は人間の中から一人、次の神候補を決める。僕ら悪魔が、仮にその誕生を何とか阻止したとしても――……」
 その神候補が死んだら。
「また、別の神候補が――探し出されるんだから」
――…………。
 それは。
 それでは。
――……無限に続く、いたちごっこ……じゃないか。
「まあね」
 さらっと。
 何でもないことのように、紅也はそう受け流した。
「それに対する策が、ないわけじゃない。でも――」
 何分世界、……宇宙全体が対象となるわけだからね、と。
 まだ一つも、ちゃんとした策っていうのは、完成されてないんだ、と。
 紅也は――……
 今日の天気でも話すかのように、
 そう。
 笑いながら、言う。
 そのために。
「そのために、僕は、いや僕らは――……気の遠くなるぐらいの昔から、あいつらと対立してきたんだ」
 今の、あるべき世界を、保つために。
 紅也は。
 何万年も、何億年も、それこそ本当に、気の遠くなるような年月を、これまで生きてきたのだろう。今の姿こそ、俺と同年代ではあるが……本来の姿は、人間とは全く違うものなのかもしれない。
「まあ――……、堂々巡りのいたちごっこであるコトは、否定できない事実だけれどね」
 少し機嫌が直ったのか、紅也は表情を緩め、笑顔を作る。
「今の解説で、少しは僕を敬う気持ちが芽生えたかな」
――んなわけあるか。
「ふふ、そう不機嫌なカヲしないでよ。冗談だよ、冗談」
――冗談、ねえ……。
 まあ、冗談を言うほどキゲンが直ったというなら、それはそれで良いとしておくか。