小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

道徳タイムズ

INDEX|8ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 

第4話「偽りの間と鏡の間」


 次の部屋に居たのは……
「貴方は……」
 背の高い、甘い声の持ち主。そしてそれは。
「俺の体だ」
 遊馬はいった。そういえば、ここに入る前に背の高いたくましい男性に抱きかかえられる幻を見たけど、アレは遊馬の本当の姿らしい。遊馬は、ネガティブに肉体だけを奪われてしまったとも言った。そして、自分の姿が見えないのも体を失っているからだと。
「俺の体、返してもらうぞ」
 遊馬がそういうと、いつの間にか戦闘が始まっていた。大人遊馬が見えない遊馬と戦っているのか、鉄と鉄がぶつかり合う音がする。だけどどっちも遊馬。体格に違いはあるけれど、決着はつきそうになかった。何度も何度もただ鉄がぶつかり合う音がする。私が刀を構えると
「邪魔をするな、コレは俺の戦いだ」
と見えない遊馬が言う。大人遊馬はほぼ完璧に見えない遊馬と同じ動きをしているのか、力まで同じなのか、息音も遊馬と同じだった。
「遊馬、もうやめて」
「なにを……!」
遊馬はもともと暴力的な面があるのかもしれない。さっきまでの遊馬とは違って周りが見えていない。楽しんでいるようにさえみえる
「遊馬!」
 私が強く名前を呼ぶと遊馬の動きが止まった。同時に大人遊馬も止まる。
 私はとっさに大人遊馬の頬をたたいた。鈍い音がする。
「いてっ! なにをする!」
 すると、遊馬は体に戻っていた。
「半ば賭けだったんだけどね」
「お前、どうして……」
「あなたのことを思い出したからよ」
 私はそういうと、遊馬をたたいた自分の右手を撫でた。そう、ずっと忘れていたけれど、昔、遊馬と似たようなことがあったのを思い出したのだ。私の記憶が段々鮮明になっていく。

*     *     *     *     *     *

夕菜と遊馬、そして私は幼馴染だった。昔、夕菜はとても泣き虫で、クラスの男の子にいじめられたりした。それを守って仕返しをしていたのが遊馬。そして、同じく夕菜を守っていたけど、暴力に走る遊馬のほっぺをよくぶったたいていたのが私だった。
「いってぇな、なにするんだよ!」
「暴力で全部解決しようとした報いよ」
「なにを~っ!?」
「あ、あいこちゃん、あすまくん、やめて、喧嘩しないで……」
それが日常だった。遊馬が引っ越してしまうまでは。

遊馬が引っ越す日は夕菜は大泣きで
「あすまくんいっちゃやだぁ~~」
「おいおい、泣くなって」
「はい、夕菜。ハンカチ」
それから三人で、タイムカプセルを埋めた。
「いつかまた3人で掘り返すんだぞ? 楼世とか硬牙のやつには内緒だからな?」
「うん!」
「遊馬、向こうで暴力なんか振るってたらいつか帰ってきた時またぶったたくからね?」
「おう、了解だ、まかせとけ!」
「……どっちの意味で言ってるんだか」

*     *     *     *     *     *

あれからもう何年もたって流石に顔は忘れてしまっていたけれど、覚えていたくない事は覚えていたみたいで。
「遊馬が楽しそうに戦ってるのを見て、ひっぱたかないとって思ったの」
「……そうかよ。とりあえず、先に行くぞ」

*     *     *     *     *     *

「私にとって道徳って何?」
 次の部屋に居たのは、まさしく私だった。そしてそこには、夕菜も居た。
「夕菜と、私?」
「愛子!?」
 夕菜は驚いた様子でこちらを見つめ、もう一人の私と私を交互に見つめて困惑した。パニック状態に陥ったみたいで、頭を抱えて首を振っている。とっても元気そうだ。だけど、もう一人の私は私を見るなり悲しそうな目をしてこちらをにらみつけた。哀れむように。そして、その後ろからは、もう一人の人物が現れた。頭が割れるように痛んで、私はその人の名を呼ぶ。
「啓輔さん!」
と。そう、ずっと頭にこびりついて、それでも思い出せなかった人。それを思い出した。
「待て愛子。あいつは……夕菜の恋人だ」
遊馬が重々しく口を開けた。啓輔さんはそんなこちらの状況など構いもせずに夕菜の頬に手を当てて
「夕菜、こっちへ来るんだ」
といった。
「啓輔君、どういうこと?」
夕菜がそういうけれど、啓輔さんは何も応えず、ただ優しく夕菜を抱えあげて連れ去った。私と遊馬は追いかけようとするけれど、もう一人の私は私と遊馬の両方をいともたやすく止めてしまう。
「ねえ愛子。私にとって道徳って何?」
 ただそれだけを呪文みたいに口ずさんで。


作品名:道徳タイムズ 作家名:黒衣流水