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道徳タイムズ

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第2話「招かれざる客~夕菜の世界と絆の鍵~」


 心のネットワーク、夕菜の創った世界……らしい。夕菜が消えて、頭がいっぱいで探しに来て、誰かに出会って……
誰かって、誰? 私はこの世界で誰かに導かれて、だからここにたどり着いた。でも、誰かって、だれ?
覚えているのは体のしびれる感覚と、夕菜の言葉。「――助けて」と夕菜が言う夢だけなの。

 楼世さんはしばらく私を見ていたけど、何かを悟ったように目をそらした。それでも、少しの間何も会話が進まないままで、私の質問も流されてしまったまま。まだ少し体がしびれて自由がきかないから動くことの出来ない私。
「夕菜の門って、一体なんなんですか?」
 もう一度聞き返すけれど、その質問に返答がないのは変わらなかった。ただ
「貴方は招かれざる客よ」
 とだけ楼世さんは言った。そして、私を取り残して部屋を出て行ってしまった。扉が完全に閉まった後、私はまだ夢を見てるんじゃないかという感覚に囚われた。あまりに突然のことが続いて、思い出せない、頭に引っかかってることもあって、全部ぐちゃぐちゃで、意味が分からなかった。
「とりあえず、夢じゃないなら夕菜を探さないと」
 私は重く不安定な体を無理やり起こして立ち上がった。
広場にでると、私は身震いした。そこはさっきとはほとんどかわりないのに、部屋から左手にある門がきえているだけで、寒くなっていた。その門。夕菜の門は今はただ黒い穴になって目の前に広がっていた。不気味な光が灯ったり消えたりして恐怖を覚える。
「楼世さんはどこに行ったんだろう」
招かれざる客。夕菜の門。途切れた記憶。そのすべては夕菜を見つければわかるはずだ。ここは夕菜の世界なのだから。
左には先の見えない暗い穴。右は私の現れた場所。それから、どこまでも続く長い道。夕菜に近いのは間違いなく左側。
「この穴、通れるのかな」
雷みたいに光ったり消えたり、すごく不安定。私は恐る恐る手を突っ込んだ。
「何をしている」
「・・・・・・っ!?」
後ろから声がすると同時に私は身構えた。とても冷たくて、なのに甘い声。見ると、そこには同じか少し背が低い位の男の子が立っていた。とてもあの声の持ち主とは思えない。髪は銀色で短く、眉はつりあがって不機嫌そうにみえるけれど、声の調子からはそれを感じなかったのでこれが通常なのだろう。私が黙っていると、意味深にこちらをみつめて
「お前、愛子か?」
男の子はそういった。
「なんで名前を知ってるの?」
「お前には関係ない」
関係ないわけがない。
言葉を飲み込む。言ってもたぶん答えないだろうから。
「私、夕菜を捜してるの」
私は彼の最初の質問に答えた。彼はしばらく黙っていたけど、そうかとこたえて穴の中へ一歩踏み出した。
「夕菜は今危険な状態にある。だが、夕菜の元へは簡単にたどり着けない。俺が案内してやるから付いて来い」
 彼の言葉はあまりに以外で私は耳を疑った。けれど他に道もない。私は頷いて彼の後ろを歩いた。黒い視界に体が吸い込まれていく。眩しい光に目がちかちかする。ふり返った彼は私の手をいきなり握って、引っ張ってくれた。夕菜の門を開けたのは、私なんだろうか? 歩きながら思い出そうとするけれど、そのたび頭が痛んでそれを拒否する。ただ
『――君にとって道徳って何?』
 誰かの声が、頭の中で何度も響いた。

*     *     *     *     *     *

暗闇を抜けると、私は一人ぼっちになっていた。いつの間にか男の子はいない。また真白な世界。でも壁も扉もない、終わりの見えない世界。目の前には台座。そしてそれよりも前にぽわぽわとした不思議な生物。子供の頃落書きで書いたようなお化けに、まんまるちょうちんが付いてる感じ。それが三匹。
「愛子ですぅ!」
「本当ね、愛子だわ」
「何で愛子がここに居るのだ?」
三匹がしゃべりだす。ファンシーな空間。三匹は私に近づくと周りをくるくる回ってまたしゃべりだす。
「ここは夕菜の世界ですぅ」
「心のネットワークだわ」
「夕菜の心、愛子は覗いちゃだめなのだ!」
交代交代、かわりばんこにそう述べる。私は聞いた
「どうして覗いちゃダメなの? ここに夕菜はいないの?」
すると三匹がまた応える
「愛子は鍵ですぅ!」
「夕菜の心の扉を開く鍵だわ」
「扉が開くと奴が来るのだ!」
夕菜が居るとは応えない。でも、夕菜が何かから逃げてるようなことは分かった。
「奴って誰なの?」
そこで三匹がぴたっと止まる。そして、一斉に応えた
「「「ネガティブ!」」」
そういって、またくるくる回って台座のほうに向かっていく。そして、三匹は台座の上でくるくる回るスピードを上げて、一つの鍵になった。持つところがハートの形をした小さな小さな鍵。私はゆっくりと近づいて手に取る。
「それは絆の鍵ですぅ」
「夕菜の門はあいてしまったわ」
「夕菜の心を守るのだ」
鍵になった三匹の声。
「待って、ネガティブって何? 守るって……」
また何も答えはないまま、三匹の返事は聞こえない。手のひらにのる小さな小さなハートの鍵。絆の鍵。こんなもので、一体何が守れるのだろう。
それから台座も消えて、辺りは真っ暗になった。

*     *     *     *     *     *

「おい、起きろ」
 目が覚めると、私は見知らぬ男性に抱きかかえられていた。とてもたくましく、背の高い男性。深くて優しい声……なんていってる場合じゃない。
私は恥ずかしさのあまり目をぎゅっと閉じた。
「おい、起きろって……って言うか降りろ!」
「え、あ、貴方……」
 もう一度目をあけると、そこには背の低い彼が居た。
「降ります……」
 私がそういうと彼はゆっくりと私をおろした。
「ごめんなさい、えーっと……」
「遊馬」
「……遊馬さん」
「遊馬でいい」
彼は遊馬という名前らしい。手をパンパンとはたいて、肩を回す。そんなに長い時間私は意識を手放していたのだろうか。それに、さっきの。さっきのは夢だったんだろうか。
「お前、首にそんなもんかけてたか?」
「え、あ、これ」
 遊馬が指さしたのは絆の鍵。手のひらにあったのに、なぜか首にかかっている。遊馬のことはよく知らないし、この鍵のことも安易に話していいのか分からなかったのだけど、私はことの始終を説明した。
「なるほどな。それはおそらく魂の精霊だ。人の心から生まれる精霊。その鍵は大切に持っておけ」
「遊馬って、この世界のことよく知ってるんだね」
「……ああ、そうだな」
 私が感心すると、遊馬はすこし寂しそうな顔をした。まるで私に何かを求めているような目で、こちらを見て、とても寂しそうな顔をした。本当に、不思議なことばかりだ。睨まれたり、見つめられたり、ここに来るまでの私は、人の顔をこんなに見ただろうか。いや、見なかった。一番近くにいた夕菜の顔さえ、まともに見れなかったのだから


作品名:道徳タイムズ 作家名:黒衣流水