男子校読書倶楽部
ダンボールから引っ張り出したSF本は思っていたよりも面白いものであった。ヘタレな主人公が窮地の中漸く能力に目覚め、力を行使しようというところまでの展開だが、なんともハラハラさせられる物語りにどっぷりとのめり込んでいた。
そんな時だ、沈黙の中、バタンッと分厚い本を閉じる音がしたかと思うと、「注目」と妙に響く低い声でそれぞれの鼓膜を震わせ、立ち上がっている男がいた。
祢が始めて此処に来た時に注意を受けた男だった。
「部活終了時刻だが、これから自己紹介と簡単にここのシステムを説明する。よーく聞いとけよ」
あ、できれば近くに集まれと思い出したように付け足した。其れを聞くとバラバラに座っている部員達が腰を痛そうにして立ち上がりながらその男の近くに集った。祢も渋々本を閉じると、集まっている中でも男から一番離れた場所に座った。
部員が全員着席すると、それを見計らっていたかの様に、色素の薄いくせっ髪の男が素早い動きでクッキーやらタルトやらを目の前に出していった。
「あー、じゃあ俺から自己紹介。二年副部長の有澤 恭だ。大体はここにいっけど俺より早く来れる又は行きたい奴は俺んとこに鍵貰いに来い。で、今菓子配ってんのが笹山 卓。家庭科部単体に興味があって入ってきたという変わり者だ」
「変わり者じゃなーい!!そんなこというならもう菓子はやらん!!」
「冗談だって。まぁ、腕は確かだ」
有澤はそういって部員達に出された菓子を食ってみろと進めた。皆がそれぞれに手を伸ばすのを見て、祢はとりあえずクッキーを一枚口に放り込んで後は手をつけなかった。
「残りはどんどん二年から言ってけ。二人三年がいっけどそれは明日だ」
その言葉を聞くと順番など気にしないかのようにスッと一人の男が立ち上がった。
「じゃ俺からー、二年の藤堂です。会計やってるから月謝忘れず持って来いよー」
黒の長髪男は満面の笑みを浮かべてそういうと立ち上がったのと同様に言うなりすぐさま座ってしまった。成る程、金が似合う男とはああいうものなのだろうか、と思わされるような性格と容姿であった。
藤堂が座ると次はお菓子を片手に小太りな男が立ち上がった。
「二年の斉藤です。SFとか好きでよくあそこら辺の棚にいるから話しかけてくれよな」
「あとお菓子もいつの間にか食べられちゃうから気をつけてねー」
「うっさい!」
入り口から反対側の棚を指差して説明していた斉藤に向かって笹山が笑いながら口を挟んだ。否定をしていないところから本当なのだろう。
二人は未だにギャーギャーとまた別の話題で口論を始めてしまっていたが、有澤は何時もの事だと気にしてない様子で、欠伸をすれば周りを見て
「これで二年は全部だな。次、一年」
ということは一年生は祢をあわせて三人ということだった。残ったもの同士で軽く目配せをすると、じゃ、俺と小さく呟いて小柄な男子が立ち上がった。
「小池 尚人です。えっと、アクションとかファンタジーが好きです。よろしくお願いします。」
小池は可愛らしくペコリッとお辞儀をすると恥ずかしそうに座った。
祢が立たずにいるともう一人の一年生は軽く腰を浮かせて俺か、という感じで立ち上がった。少し背が高く知性的な顔つきをしていた。
「野々村 葉です。日本文学が好きです、特に夏目漱石。よろしくお願いします」
小さくお辞儀をして座った野々村に数名の二年生が渋いなーと感心したような声を上げた。そんな中、さて、次は自分かと軽く溜息つくとゆっくりと立ち上がる。
「藤咲 祢です。…宜しくお願いします」
名前以上の必要な情報は言わず軽いお辞儀をして黙って座る。これが祢にとっての自己紹介のベストであった。だが構わず大してそれに害した様子のない空気が漂っていることにとても安心した。
有澤は全員終わった事を確認すると、