男子校読書倶楽部
プロローグ
好きなのか分からない、嫌いなのかも分からない
中学時代の一番の友人から言われた言葉だった。彼はおき楽で笑い上戸でクラスの人気者でもあったが、このように偶に暗い影を落とす一面があることを僕は知っていた。
その時本を読みながら窓辺に腰掛けていた僕はまた始まったか、とさして驚く様子も見せず、かといって呆れた表情を見せることもなく、ただ彼を見つめて其の先の言葉を待った。
俯いていた彼も僕の方を見た。それは今日教室内で始めて目が合った瞬間だった。
そしてこの時、彼の言葉が紛れも無く自分のことを言っているのだと気がついた。
彼には付き合っている女の子がいた。当然その子のことを言っているのだと、彼の第一声を聞いたときは思っていたはずだった。
が、しかし自分に向けられた目とは言うと、決して恋愛に迷い、彼女の事を思う恋人の目ではなかった。
唯、瞳に僕を映し、そしてその存在を確かめ探るような眼差しであったのだ。
そしてその視線に刺されているのだと漸く気づいた僕は、情けの無いことに、呆然とその眼差しを受け止めるばかりでいた。
何も言えない僕を黙って見つめていた彼は、また口を開いた。
分からないんだ。何がって、君の事が。
そういった後、目を逸らし小さく、何一つと呟くように付け足した。
何一つ。何一つ彼は僕の事が分からないというのだ。
僕はというと、そんなことをいう彼の事が分からなかった。
何が分からないというのだ。普段過ごしている僕の存在、行動、言葉だけの他に何か知りたいことでもあるというのか。
そんなモヤモヤとした不満を抱えた僕はいつもの愛想笑いを浮かべて、何がそんなに知りたいんだ。と表情に反し不機嫌そうな態度が拭いきれていない口調で尋ねていた。
言った後、こんな風に責めたてるような言い方でいうつもりなどなかったのに、と内心酷く動揺していた。
彼はというと僕の言葉に暫し俯き黙り込んでいた。
その沈黙が長く続くほど、いつもの冷静な自分はみるみると姿を消していった。抑えようにも苛立ちは増すばかり。
もう限界だ、といったところで漸く彼の重たそうに閉じられた口が再び動き出した。ホッとしたのもつかの間、其の言葉は一瞬感じた安心さえ滅ぼし、思考も、猶予も
与えてはくれなかったのだった。