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思い出の玩具

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「何してるの?」
「懐かしいなと思って」
 僕が手に持っているのは、二十年程前に流行ったルービックキューブというパズル玩具だ。
 3×3、54個の白・青・赤・オレンジ・緑・黄色の付いた立方体パズルで、一つ一つの四角のことをキューブといい、これらのキューブを、各列(行)ごとに自由に回転させ、色を各面揃えて完成させるという、立方体数学パズルだ。
 その当時親に買ってもらったものをまだ持っていたのだ。当時はまだ僕は小学生で買ってもらったのはいいが、全くこのパズルに手も足も出ず、ただ単に色を並べて遊ぶ飾りと化した。偶然面白い色の並びができると喜んでいたものだ。

「片づけしてると思ったら、そんな懐かしいもの持ってたんだ」
「ああ。記念品とかと一緒に混ざってたみたいだ」
 他の玩具とかはとうの昔に処分したはずなのに、たいしたスペースもとることのないルービックキューブは処分をかいくぐり、実家を離れ結婚し、新居を構えた僕の手元にあった。

 小学生の当時はこれをどうやって並べ替えればいいのか皆目検討もつかなかったが、今見ると、3×3の立方体パズルという好奇心をそそる対象である。

「なるほど。そうか……。3×3で自由に動くように見えるけど、各面の中心の色は絶対に動くことがないから……回し方には必然的にパターンが存在するんだな」

 パズルというのは、大人になってからその本当の面白さがわかるものだと思う。
 ルールの中で、限られたパターンの中から解を見つけ出すというのは、いかにも自由奔放な子どもの思考回路にはそぐわない。積み上げという作業が必要だ。

 その忍耐と積み上げを覚えさせようと、これを僕に買い与えたのだとしたら、親というのはありがたいものだと思うが、残念ながらその思いのほとんどは大人になってからしか理解できないものばかりだ。逆に言えば、親の気持ちがわかるようになれば大人になったと云えるのかもしれないけれど。

「…………」
 あれから、いろいろとキューブを回転させながらパターンを見つけて、2面完成させることができた。理屈で言うと2面できれば6面はできるはずだが、もう少し時間がかかりそうだ。
「まだやってるの?」
 キッチンからいい匂いが漂ってくる時間になり、奥さんから声を掛けられる。
「わかりだすと結構面白い。小学生のころにこの面白さに気づきたかった」
「結構揃ってる?」
「2面なんとか揃えられた」
「へー。できそう?」
「もう少し時間があれば。いったん揃えられれば、それのパターンを覚えてスピードを上げていけるんだろうな」
「私もやってみようかな」
「頭の体操にいいからやってみるといいよ」
「でも、その前にゴハン食べてね」
「はいはい」

 片づけのつもりが、一日の結構な時間をルービックキューブに費やしてしまった。
 でも、パズルは普段使わない頭の部分を使うので、脳内が気持ちがいい。

 今度の休みには実家に寄って、両親にプレゼントでもしようか。この思い出と一緒に。

作品名:思い出の玩具 作家名:志木