ハロウィンの夜の魔法
双子の魔女の視線がリゼルに注がれる。強いほどの眼差しを体に感じ、思わず目をそらしたくなるが、リゼルは眦にきっと力を込めて二人を見返した。
「どうせこれから生きてたって、たいした人生は待ってないと思うもの。それなら、ちょっとくらい人とは違う道を選んだほうが楽しめるかなって」
「本当に、いいのね?」
確認するように問いかけられ、リゼルはこくりと頷く。
「それに……それに、母さんだって、多分それを望んでいるんだと思うわ。だって、じゃなきゃ母さんがこの物語をあたしに語って聞かせた意味が無くなってしまう」
母があの物語を聞かせてくれなければ、リゼルはおそらくオークストンにはいない。リゼルがこの町に辿り着いて、こうして双子の魔女と会えたのは、母の物語のおかげなのだ。
だったらそこに意味を見出のが、娘であるリゼルに課せられた義務だろう。
「人間にこうべを垂れる覚悟はある?」
リゼルはちょっと笑って訊ねた。
「具体的にどうするの?」
「どんな無茶を言われても、己の心身を削っても達成するの」
それなら得意だ。リゼルはこれまで、散々人間に扱き使われてきた。
「じゃあ早速魔法界の王様に遣いを向けるわ。後日、魔術訓練学校への入学手続き書類やらが送られてくると思う」
「王様なんているの!」
「たいしたもんじゃないのよ。ただのスケベなおっさん」
一介の小娘にただのスケベなおっさんと一蹴されてしまう王様とは、いったいどのような人なのだろう。
「便宜的に王様って言ってるけど、役割的には統率者のほうが近いかな」
「とにかく、詳しくは書類が到着してからになると思うけれど、一度王様と面談があると思うから」
「どうしよう、あたし、王様に謁見できるようなドレスなんて持ってないわ」
慌てるリゼルに双子魔女は笑う。
「そんなの必要ないから」
「リゼルは今のままでとびきり素敵だよ」
素敵。
そんなこと言われたのは、生まれてこのかた初めてだった。
作品名:ハロウィンの夜の魔法 作家名:夜凪