ハロウィンの夜の魔法
その言葉は、衝撃をともなってリゼルの胸に落ちた。
あ、あたしが……あたしが、何て!?
ま、魔法使い……の、血、を引いてる……!?
やにわには信じられず、リゼルは目をこれでもかというくらい見開いて立ち止まる。
向かいには、相変わらず屈託の無い笑みを浮かべるアリア。
ということはなんだ。彼女は魔法使いで、その三角帽は仮装ではなく正真正銘彼女の職業を示すもので、リゼルも彼女と同類でやはり魔女―――纏めると、そういうことだろうか。
しかし、頭では整理できてもハイそうですかと簡単に受け入れられるものではない。魔法使いの存在は、母の物語を聞いたときから信じていたけれど、まさか目の前の少女が魔女だなんて。
というか、自分がその魔法使いだったなんて。
「ごめんなさい! やっぱりあたし、信じられません!」
魔法なんて今まで使えた試しがない。その片鱗さえ皆無だったのだから、リゼルの反応もある意味理に適っている。
アリアは暢気なものだった。
「また謝ってる」
謝りたくもなる。
「あんまり謝ると幸せが逃げちゃうよ」
「いえ、お構いなく。幸せなんて望んでませんから」
母が死んで、天涯孤独の身となったときから、絶望とともに生きていくことを決意したのだ。今更幸せなんて望まない。
「だったらどうしてこの町に来たの?」
ふとそれまでの口調を改め、急に静かに問いかけてきたアリアの言葉が、リゼルの胸に突き刺さる。
「そ、れは…………」
氷の刃のような切れを宿したアリアの言葉に、リゼルはうまく答えることができない。
「オークストンには普通、余所者は入れない。それはわたしたちが扉を管理しているから。ここに入るには、町の内側の者に招かれる必要があるのよ」
「招かれる……?」
「エリスに会わなかった? カラフル鳥の羽根マントの、旅人エリス。彼女、わたしたちの親友なんだ」
彼女はアリアたちの親友だったのか。
ということは、彼女がリゼルにオークストンの町のことを教えたのは、予定調和だったということか。
「エリスが教えてくれたの。旅先で同類かもしれない女の子を見つけたって。そのままにしてもよかったんだけど、未練ありそうな様子だったからオークストンの存在を伝えてみた、行くか行かないかは、彼女に委ねたけど、って。そして、あなた、リゼルはこの町に来た。つまり、願い事を捨てなかったのでしょう?」
「願い事……」
譫言のように呟くリゼルの手を取ると、アリアは笑顔を向けて再び歩き出す。
「願い事の内容までは知らないけど。ねえ、ここは寒いわ。早く店へいらっしゃい。あったかいココアを出してあげる」
作品名:ハロウィンの夜の魔法 作家名:夜凪