Musik ~むじーく~(中原編)
練習場では、まだ団員が思い思いの場所で談笑したり、練習したりしていた。悦嗣の姿を見とめると、各々の席に戻り始める。新見は所在なさげに席の傍に立っていた。さく也のヴァイオリンがインの席に置かれたままになっていたからだ。
ヴァイオリンを手にとって、さく也はアウトの位置に座った。新見が「ほっ」としたような表情を浮かべる。
「さっきはすまない」
さく也は新見に謝った。彼は驚き、慌てて首を振る。
「ぼ、僕の方こそ、すみませんでした!」
新見の声が大きく響く。途端に周りの目が二人に集中し、それに気づいた新見は顔を真っ赤にして、勢いよく椅子に腰を下ろした。パイプ椅子が音を立て、身体のどこかがあたった譜面台は倒れそうに揺れる。ずり落ちる楽譜が更に新見を慌てさせ、周囲の笑いを誘った。
落ちた楽譜を拾い上げたさく也の口元に笑みが浮かび、目が合った新見も照れくさそうに笑う。
「じゃあ、練習を始めるから。『花のワルツ』も用意しとけよ」
悦嗣が手を叩いて、みんなの意識を音楽へと戻した。
そうしてチューニングの音が鳴り、後半の練習が始まった。
作品名:Musik ~むじーく~(中原編) 作家名:紙森けい