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ハロウィンの夜の殺人

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11月 8日 指名された犯人


フローラからの電報が届いた。
「ダンス・ホールに来いってさ」
コートを羽織りながらドランは言った。
「私も行くわ」
クレアも用意を始めた。
ドランは止めようとしなかった。
むしろそばにいてほしかった。
「それじゃ行くか相棒」
「ええ」
二人は自宅を後にした。

ドランとクレアがダンス・ホールにたどり着くと既にフローラが来ていた。
「フローラ。進展があったみたいじゃないか」
「そうよ。……そっちの子はあなたの娘かしら?」
フローラがクレアを示して言った。
「いいや。でも娘みたいなもんさ」
フローラはしばらく鋭い視線でクレアを観察すると言った。
「捨て子ね。その子」
「そんな言い方するなよ」
フローラの無神経な発言にドランは声を荒げた。
「ただの推測でしょ。つまり私の推理は当たってるのかしら?クレアちゃん」
心の傷に触れられクレアは黙っていることしか出来なかった。
「おい、フローラいい加減にしろ」
ドランがクレアの前に立ちふさがりフローラの視線を遮った。
「ごめんなさいね」
フローラは特に悪びれた様子もなく言うと続けた。
「それよりも事件の謎、解けたわよ」
突然の発言にドランは驚きを隠せなかった。
「犯人はもうすぐ来るわ。次にここに現れた人物が犯人よ」
ドランの心に緊張が走った。

その人物がダンス・ホールにたどり着くとドランは信じられないという視線を向けた。
「まさか……そんなはず……」
彼の視線の先にいたのは紛れもないダナエ・スターシャその人だった……。
現場の奇妙な雰囲気にダナエは困惑を隠せなかった。
「ミス・ダナエ。あなたが犯人ですね」
フローラが高らかに告げた。
「ちょっと待ってよ。どういうことよ!」
訳が分からずダナエは叫んだ。
「まずあなたには犯行の動機がある」
フローラが探偵らしく言った。
「なんで私がミッシェルを殺さなきゃ行けないのよ……!」
「ミスター・スミス……違いますか?」
沈黙するダナエを無視してフローラは続けた。
「あなたとミス・アマンダ、ミス・ミッシェルはミスター・スミスに恋をしていた。違いますか?」
なんでそんなことまで……。
心の中で呟かずにいられなかった。
「だけどスミスの心はミッシェルに傾きつつあった……だからミッシェルを殺した。単純な動機ですね。つまらない」
「ダナエ……まさかお前だったなんて……」
ドランにとってその犯人は意外すぎた。
そうだよ、校舎の片付けをしている時にミッシェルを殺すことなんて簡単じゃないか。
「本当に私じゃないの!信じてドラン」
悲痛に叫ぶダナエをフローラは冷めた視線で見つめていた。
「ならなぜ現場にあなたのハンカチが?」
フローラはその手に持った物を高々と掲げた。
「知らないわよ!そのハンカチは数日前に失くしたわ!」
「そして最も重要な点、拳銃からあなたの指紋が検出されました」
「ハァ……!?」
ダナエがもう完全に訳が分からない様子だった。
はたして本当に彼女が犯人なのか?
ドランの頭に疑問が浮かんだ。
はたしてあの短時間で殺人が可能なのか?
「本当にお前が犯人じゃないのか……?」
悲痛に叫ぶダナエに問いかけた。
「本当よ!信じて!誰かが私をハメたのよ!」
ドランは頭の中で考えた。
はたしてダナエが犯人なのか。
「さあ警察署に行きましょう」
フローラがダナエの腕を掴んだ。
「嫌!」
ダナエは抵抗した。
しかしフローラは何かの武術を習っているのか、すぐにダナエを押さえつけてしまった。
「待てよ」
ドランは口を開いた。
「ダナエは犯人じゃない」
「なぜ言い切れるのかしら?」
フローラはダナエから手を離しながら言った。
「いや、もしかしたら犯人かもしれない……だが決めつけるには早すぎる」
「ならもう少し証拠を見つけなくちゃね」
フローラはニヤリと笑いながら言った。
「彼女以外が犯人だという証拠もな」
ドランが挑戦的に言った。
「たとえお前が調べなくても俺が真犯人を暴いてやる」
「面白いわね、なら勝負よ。11月 15日に警部とここで会う約束をしているの。その日が審判の日よ」
「分かった」
「健闘を祈るわ」
フローラは挑戦的に笑うとダンス・ホールを後にした。
「嫌な人ね」
クレアが呟いた。
「あいつは昔からああなんだ。でも根はいい奴なんだぜ」
「でもドラン、真犯人に心当たりなんてあるの?」
ダナエが心配そうに言った。
「ない……」
「じゃあ、どうしてあんなこと……」
「あいつの理不尽な行動が許せなかった……安心しろ真犯人は俺が暴いてやる」
ドランが力強く言った。

真犯人を見つける……そうは言ったものの、ドランにはどうすればいいのかまったく分からなかった。
「まずは現場検証よ」
クレアに言われ彼は再びクレアと共にダンス・ホールに訪れた。
「手分けして探しましょう」
そう言うとクレアは奥に見えるドアに向かおうとした。
「そうだ、手袋着けた?」
「もち」
ドランは白い手袋をはめた両手をクレアに見せた。
クレアはそれを確認すると奥に消えた。
「さあて捜査を始めますか」
ドランは反対側のドアに向かった。
ノブを引くとドアはすんなりと開いた。
その先は細い通路になっていた。
「なんだよせまい場所だな……」
悪態をつきながらもドランは通路を進んだ。
途中で金色の腕時計が落ちているのを見つけた。
それを拾い上げる。
壊れてはおらず針は正確に時を刻み続けていた。
裏側を見てみるとそこには文字が彫られていた。
「A・R……名前みたいだな」
ドランは腕時計をポケットにしまうとさらに通路を進んだ。
その先にドアが見えた。
「裏口か……」
ドアを開けるとそこは見知った大通りだった。
「犯人がここから逃げたのは間違いないな」
ドランはいったんホールに戻ることにした。
彼がドアを抜けると丁度クレアも戻って来たところだった。
「何も見つからないわ」
クレアが残念そうに言った。
「あの先は何だったんだ?」
ドランがクレアが出てきたドアを示して言った。
「楽器とかをしまう倉庫よ。そっちは?」
今度はクレアがドランに質問した。
「犯人の逃走経路を見つけた」
「何ですって!?」
「この奥に裏口があるんだ。そして通路でこれを見つけた」
拾った腕時計をクレアに見せた。
「犯人の物?」
「おそらくな。そして丁寧に名前入りだ」
裏面をクレアに見せる。
「A・R?」
「アマンダ・ローズ」
ドランが該当人物を言った。
「きっとその人のだわ!」
「アマンダと一緒に第二校舎を担当したやつに話を聞こう」

ローム達によるとしばらくアマンダその姿が見当たらない時間があったと言う。
そして戻って来たアマンダはビールを持っていた。
そしてこう言ったという「疲れてると思ってビールを買って来たわ」。
アマンダの伝票によると購入直後の物らしい。
しかしミッシェルを殺害後にビールを買いに行っては時間が足りない。
「彼女にもアリバイがあるわね……」
「アリバイ?そんな物ありゃしないよ」
「どうしてよ?ならどうやってビールを……」
「共犯者がいれば簡単な話さ」
「そうか!ミッシェルを殺害した後ビールを購入した誰かがアマンダに渡したのね!」
「おそらく動機も分かった」
作品名:ハロウィンの夜の殺人 作家名:逢坂愛発