沼池主の日常
自分の家としている屋敷の中庭にある池の前に、見知らぬ男が立っていた。くしゃくしゃ頭に、きゅっとしたつり目の男で、なまずと同じような着流しを着ていた。
(はて、見たことのない男だが・・・)
今、人間に化けているなまずは、つり目男を見てとっさ物陰に隠れた。下手に見つかると、人間に捕まえられてしまうかもしれない。そして人間とは、あまりろくなものではない。
しかし、つり目男はパッとこちらを見た。・・・・・どうやら、見つかってしまったらしい。そして、こちらへ駆け寄ってきた。
(仕方ない、何か言って怖がらせるだけ怖がらせておくか)
隠れることをあきらめてなまずが物陰から出た。すると。
「なまずサン!僕もついに化けられるようになりましたよ!これからは、なまずサンにくっついていろんなところに行けられますから!いつも話してる図書室の?本?さんにもに会わせてくださいよ!」
嬉しそうに言うつり目男の声を、なまずは池の中で嫌というほど聞いた。普段何を考えているのか分からないような奴の、これだけ嬉しそうな声を、今はじめて知った。
なまずの周りにいるさまざまな人や物は、今日も彼らなりに生きている。