左手ピース
00.プロローグ
どんなことでもやらなければ身体や感覚、脳みそなどあらゆるものは鈍ってしまう。
これを読んでいる君たちもそう感じた経験はないだろうか。
現にオレの左手のピースサインは右手のそれより硬い。中指と人差し指の間の開きが、左手の方が狭いということである。
右のそれはよく開く。だが、どんなに頑張っても左手は右に勝てないのだ。
何せ、オレの人生、17年間、ずっと右手でピースをしてきた。この17年間の間に何回ピースサインをしたかなんて全く見当もつかないが、仮に右手ピースを100回してきたならば左手ピースは精々3回程度だろう。
そもそも男がそんなにピースするのかって? 偏見はいけないぜ。
こんなことをあれこれ考えているうちにオレにも春がやってきた。よくぞいらっしゃいました、春! いえーい、ピース。
だが、その春は左手のピースで通すものであって、決して右手のピースではなかった。
というのもオレは世に言う「春」つまり、「恋」を幼稚園以来一度もしていなかった。春よこーいと叫んでみたわけでもなく、只々、友情と部活に明け暮れていた。友情・部活に費やしてきた時間を100時間とすると恋なんてたったの5時間程度。いや、2時間か。
受験勉強だって100時間やった奴に2時間しかやっていない奴が勝てるはずがない。
ということは、だ。「友情・努力・勝利!え、恋?何それ美味しいの?」という奴が、「私、恋する乙女よ(ハート)」という奴にテクニックだとか、上手なお付き合いの仕方とか分かるはずがないのだ。
まあ、分からなくてもいいという人もいるだろうが。
オレの春は左手ピースで2時間。