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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

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「あう……」
 非難が集中したスワンだが、それで態度を変えることなく、鼻歌を歌いながら進んでいた。すると前触れなく、いきなりスワンの体が錦鯉バイクごと細かく切り刻まれた。スワンの肉片は、自然に落下していき、バベルの塔の底面に到着すると、
――――ビチャ
 と生々しい音を立てながら砕け散った。
「油断していたスワンを待ち構えていたのは、陸軍軍事結界官による、W-35結界だ。この結界は、目に見えない格子状の網のような結界を一面にはり、そこを通過するものを切り刻むという冷酷なものです。結界の域を超え、敵を殲滅させることに特化した技だと言われています。陸軍軍事結界官にとって、十八番といえる技です。この罠にスワンはまんまと引っかかった」
「白鳥君らしいよね、この展開」
 スワンの失態に焦りを見せないマユだったが、ハルは明らかに動揺した。
「スワン君! どうしよう。どうしよう」
「大丈夫だって。どうせ一時間もすれば再生されるんだから。それよりも、楽して一番下まで行くことできたからよかったじゃん。でも、再生するまで待たないといけないから時間は余計にかかるけどね」
 一方スワンは、肉片になってしまったことによる激痛を全身で味わいながら、自らの失態を悔やんでいた。自分で助けに行くことを買って出たにもかかわらず、自分の不用意な行動で無様なことになった。今回は自分だけだからまだいい。もし同様のことで、ハルやマユなどを巻き添えにしてしまっていたら目も当てられない。スワンは自らの愚かな行動に対して怒りを燃やした。
 再生しながら体がピクピクしてきたが、それは痛みによるものではなく、自らに対する怒りに震えていたのである。
 約一時間後、完全に再生が完了して体を動かすまでに復活したスワンは、ゆっくりと目を開けると、鋭い目つきで前を見据え、これより先、いかなる事があっても、自分に与えられた使命を全うすると心に誓った。
 まずは取り残された罪人を見付け、ハル達の元に連れて行くこと。スワンは、再度右掌から錦鯉バイクを召喚すると、早々に乗り込み飛び立とうとしていた。
 丁度その頃、ハル達は、スワンが切り刻まれたことで、スワンと天使の戦いを見守る必要がなくなった。そのため、暇をもてあまし、それぞれが思い思いに過ごしていた。
 マユによる幻影達の働きにより、十等兵達はハルを始めとする罪人達に近寄ることができなかった。そのため、かなりリラックスして過ごすことができた。マユに至っては寝そべったまま雑談する程である。 しかし、マユの背後にスッと音もなく近づく者がいた。その者は、誰からも気付かれることなく現れると、すぐにマユの首を斬り落とした。次に、マユの髪を掴むと、何も言わずに塔の中央に放り投げた。
「きゃーー!」
 ハルの叫び声を聞いた罪人達は、一斉にマユの方を向いた。事態を理解した罪人達は、マユに危害を加えた者をじっと見つめたまま身動きをとれずにいた。皆急な出来事でパニックになりそうだったが、気を抜くと自分がやられる。そう直感したからである。
 しかしハルは、そんなことお構いなしにマユの側まで駆け寄ると、大きな声をあげながら取り乱した。
「罪人共よく聞くがいい。私の名は第五獄卒長、ジャッジ・ケイ、別名を羅刹天という」
 マユの首を斬り落としたのは、ジャッジだった。例の火柱を伴いながら自己紹介をしたジャッジは、首を失ったマユの胴体を憐れみの目で見つめながら、呟いた。
「君の名はマユだったな? 君は非常に可哀想だ」
「なに? 変態のねえちゃんを痛めつけたのはてめぇじゃねぇか」
 罪人達は口々にジャッジを非難した。
「いいや、マユがこうなったのは、ここにいるハルのせいだ」
「は?」
「どうしてだよ」
「馬鹿言うんじゃねぇ」
 罪人達は、恐怖に震えながらも、ジャッジの理不尽な言葉に抗議した。一方、名指しされたハルは、どうして自分のせいと言っているのか、混乱しながらも必死で考えていた。そのため、罪人達の怒号が飛び交う中で、身動きをとれずにいた。ハルの中で結論が出ないまま、暫く経った。
「どうして私のせいなんですか? 私が何をしたんですか」
 気付かない間に迷惑をかけた。そう考えた。気付いていないのなら聞くしかない。いくら考えても分からないのならそうするしかない。そう思った瞬間、勝手に口が開いたのである。
「ほう。貴様がこの世界にどれだけ害のある存在なのか。どれだけ他人を不幸に陥れる存在なのか全く自覚がないということだな? 無知は悪なり。貴様の存在がまさにそれを体現しているのだ」
「私が……不幸に?」
「左様。分からぬならば、教えてやろう。貴様は自殺して命と落としたな?」
「はい」
「神より与えられた聖なる命を自ら絶とうとする行為は、神の創りたもうた被造物を蔑ろにする行為であり、最も神に背を向けるものだと解釈される。それ故、自殺は罪が重いのである。更に、神の使いであり代弁者である天使にとって、最も忌むべきことである」
「…………」
 ハルは何も言い返せなかった。罪人達はハルを見つめながら皆静まりかえったが、どうして自殺という罪を犯すことがマユに対して理不尽なことを行うことにつながっていくのか見当がつかなかった。
「だから私は、刑務官を束ねる長として貴様を許すことはできない。私がここに来たのもそのためである」
「第五獄卒長、ジャッジ・ケイ様の登場だ。しかし私の知る限り、バベルの塔の執行者は国防省の軍人のみです。刑務官はシステムの管理だけだとされているはずです。どうしてジャッジ様が直接責め苦を与えるのか!」
 ジャッジの言葉を遮ってカムリーナの実況が辺りに響いた。ジャッジは、フッとため息をつくと、カムリーナの問いに答えるが如く、続きの言葉を話し始めた。
「確かに、通常はバベルの塔において、私は手を出せない制度になっている。しかし、男色は罪である。マユのふざけた所業は明らかな罪なのである」
 そう言いながら、幻影としてのインドラを掴み上げると、腹部に強烈な拳を叩きつけ木っ端微塵に粉砕した。
「獄中の罪に対する懲罰は刑務官の役目。それ故、私が執行することが適うわけだ。しかし、ハルがこの場にいなかったとしたら、私がここに来ることもなかっただろう。当然マユの男色にも気付かずにこんなことをしなくても済んだ。つまりは、ハルがいたためにマユは非道い目にあったというわけだ」
「それは屁理屈じゃねぇか!」
 罪人の一人が猛然と抗議した。
「君は勘違いしているな。刃向かうことが許されているのは、国防省の軍人のみだ。バベルの塔においても刑務官に対する反抗は許されていない。君の担当抗弁に対する懲罰を執行する」
 と言うと、抗議した罪人の首を手にした警棒で斬り落とし、マユと同様に塔の中央に投げ捨てた。
 担当抗弁とは、刑務官に対して口答えなどの反抗的な態度をとることである。当然、刑務官による懲罰の対象になる。
「あ……あ……」
 ハルは、大きく目を開いたまま、呆然とその場に立ち尽くした。叫び声とも言えないようなかすれるような声を滲ませながら、目の前で起こっている出来事に愕然とした。