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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
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天上万華鏡 ~地獄編~

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第19章「風の精霊ウィン」


 ハマス共和国は、防衛の強化を図るべく、着々と準備を進めていた。
「ほらね。やっぱり私の思った通り」
 マユはハルやスワン、リストたち幹部を前につぶやいた。
「でもさ、これはちょっとな」
「何よ白鳥君、ロンちゃんが城壁がない。城壁がないってうるさいから作ってあげたんじゃない」
 目の前には、クッキーを作る特技があるアントニオが造成した城壁がそびえていた。当然、クッキーで作られた城壁で、周りは香ばしいにおいで包まれた。
「でもクッキーの城壁は……なぁ?」
「白鳥君うるさすぎ。クッキーでもここまで大きいものを作れば大丈夫だって!」
 その瞬間、城壁に雷が落ち、木っ端みじんに砕け散った。
「のぉぉぉぉ!!」
 雷を落としたのはロンだった。
「確かに私は城壁を作れとは言ったが、こんなもろいものを作れとは言っていないぞ。ローマ帝国の兵力はこんなものではない」
 ロンの言うことは正に正論。誰もマユを庇うことができなかった。
「じゃあどうすればいいのよ。誰も城壁を作ることができないから、苦肉の策でアンチョニオの技でやってみたんじゃない」
「アンチョニオ……」
 マユを始めとした幹部の個性に圧され、アントニオは文字られた自分の名前をつぶやくしかなかった。そんな中、ハルバードが手品をして場を和ませようとした。いつものように鳩をシルクハットから出す。その様子を怪訝な顔をしてマユだったが、何かを思いついたようにハッとした表情をした。
「ハルバード! その鳩ってどうやって出しているの? 何かタネがあるの?」
「手品師にタネを聞くのは……」
「口答えしないの。どうやって出しているの?」
 イライラしているマユに誰も逆らうことができなかった。
「手品師がタネを素人の前でさらすのは、屈辱ですが……」
「もったいぶらないで早く言う!」
「シルクハットから鳩を具現化して……」
「やっぱり、あんたは具現化能力があるんだね?」
「いや……手品師はタネを仕込んでやるべきなのに、私ときたら……」
 一同どよめいた。マユの言わんとすることが理解できたからである。
「じゃあさ、鳩じゃなくてレンガを出すことはできる?」
「できます……ほら」
 シルクハットからレンガを取り出すと、更にどよめきが起きた。
「こりゃいけんじゃない?」
「白鳥君。安心するのはまだ早い。ハルバード。羽が付いたレンガを出して、それをあそこに積み上げることができる?」
 マユは、アントニオが作った城壁があった場所を指さした。
「はい。可能です」
 と言いながら、ハルバードはシルクハットから、羽根つきレンガを取り出し、それを指定の場所まで飛ばすと、着地させたと同時に羽を収めた。
「ハルバード凄い! これで城壁が!」
 一同さらにどよめきが起きた。
「え? 私……皆さんのお役に立てるのでしょうか?」
「立てるってもんじゃないよ! 最後のチェック。ロンちゃん。雷」
「言わなくても分かっている」
 ロンは、ハルバードが出したレンガに雷を落とした。しかしレンガはびくりともしない。傷一つ付かなかった。
「これで城壁は完璧だよね?」
 マユは皆を見渡しながら、ニヤリとした。うなづく一同。しかし、面白くないものがいた。それはアントニオである。自分が城壁を築くと思っていた。お株を奪われた形になり、不貞腐れた。
「もう固くできればいいんでしょ?」
 鼻息荒くしながら、再度城壁を作るアントニオ。その城壁は、黒くこれまでのものとは様相が違っていた。
「はい。ロンちゃん」
「分かっている。それにしてもロンちゃんってなんだ」
 いつもの遣り取りの後、アントニオが作った城壁に雷を落とした。すると先ほどとは違い、全くの無傷だった。
「なんで?」
 スワンが驚くのも無理はない。先ほどまでは木っ端みじんに壊れていたのだ。
「どういうこと?」
 マユは、この状況を理解するために、アントニオに聞く。
「味ではなく、硬さに着目してレシピを再構成しました」
「おいおい……」
 あきれ顔でつぶやくスワンを見て、アントニオは感情をあらわにした
「だって、マユ様がクッキーの家って萌えるわって言っていたから」
 一同、無言でじっとマユを見つめた。
「しょうがないじゃない! アンチョニオがおいしそうなクッキーを作るものだから!」
 一同、更に白けた顔でマユを見つめた。
「マユの食い意地が招いた失敗だな」
 今度ばかりは誰もスワンの言うことに口を挟まなかった。
「なによ。白鳥君ってばしつこい。そんな話もういい。とにかく、おいしいクッキーではなくなったけど、固い壁を作ることができますよってことで」
「マゾヒストにたしなめられたらおしまいだぞ。サディストの誇りを忘れるな」
「リストさ、私、サディストじゃないから。あんたと一緒にしないで」
 マユが責められている様子をみて笑いが止まらないのか、スワンはニヤニヤしている。その姿を見たマユはあからさまに舌打ちした。
「もう、マユちゃんもわざとじゃないんだから……みなさん仲良くしてください」
「ハルちゃんは優しいね。もう大好き!」
 機嫌が直ったマユは、
「あ……」
 ふと何かひらめいたのか、周りを見まわしながら、
「ジオは? 盗聴マニアの」
 と呟いた。
「確か休憩室で昼寝をしているはずです。一日十二時間寝ないと力を発揮できないといつも言っていました」
「起こしてきて。そして今すぐここに連れてきて。今すぐ」
 機嫌の悪いマユは手に負えない。皆そう思っていたが、それ以上に、マユがひらめいた答えを知りたくなっていた。
「呼んできます」
 笠木を見送ると、マユは口を開いた。
「私の予想が当たっていたら、ジオってかなり使える人ってことになる」
 皆、マユの真意を測れずにいた。
「盗聴マニアがどうして使えるんだよ」
 またしてもスワンだった。
「まあ待ちなさいって」
 そうしているうちに、やる気のなさそうなジオが笠木に連れられてやってきた。
「あのー今日は何もないって聞いていたんですが」
「文句を言わない。あんたは私の質問に答えればいいの」
「こえー! 噂通りこえー」
「どんな噂なのよ!」
「それを言ったら……もっと怖くなるからやめておきます」
「やっぱりそういうキャラで浸透しているんだな……」
「白鳥君!」
「下品だからそうなるんだ。全く」
「ロンちゃん!」
 次第に険悪になっていく様子に耐えられなくなって、
「マユちゃん! ジオさんのこと教えて!」
 ハルは話を逸らそうとジオの話を持ち出した。
「」