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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|122ページ/140ページ|

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「帝国陸軍の諸君。よく聞くがいい。あなた達の司令官は、我が幻影に食べ尽くされ、再生の余地はなくなった。つまり完全に滅せられるのである。あなた達においても我々に刃向かうということは、この司令官のように永遠の苦痛を味わうことを指すのだ。その覚悟でもって弓を引くがいい」
 司令官の憐れな姿とネロの言葉。この二つで自分の辿るであろう末路を生々しく理解した帝国陸軍の兵達は、表情を強ばらせながらジリジリと後ずさりした。
「あなた。結界の仕上げを」
「御意」
 精霊を召喚した親衛隊は、ワンドを使って伊達家の武士達が立っている前に線を引いた。まるで伊達家の武士全員がスタートラインに立っているかのように引かれている線からかすかに蒸気が立ち、同時に精霊が醜く溶けて地面に消えていった。
 ネロは、結界の準備が完了したことを確認すると、別の親衛隊が持っている銃を手に取ると
――――パンパンパン
 躊躇せずに発砲した。帝国陸軍の兵達は、それまで及び腰だったが、ネロの発砲の驚き、反射的に発砲を始めた。
 攻撃したら司令官のような仕打ちにあう。引けば追撃される。八方塞がりの中で帝国陸軍の兵達は自棄になりながら一斉砲撃に打って出ることになった。
 帝国陸軍は機関銃やライフル銃など太平洋戦争で主に使われていただろう兵器を手に取り攻撃をしていた。伊達家が生きていた時代にはなかった最新兵器。当然伊達家にとって脅威となるはずだった。しかし今はその立場が逆転することになる。
 伊達家の武士達は、ネロの指示通り、帝国陸軍の攻撃が始まっても攻撃態勢のまま微動だにしなかった。
 帝国陸軍の弾は、伊達家の武士の前に引かれた線から沸き立つ蒸気に当たると、弾が消える代わりに、セルポップが現れた。弾が煙を通過する度にセルポップが現れ、その数も百体を超した。
 伊達家の武士達は、帝国陸軍の攻撃が届かないことに驚きを隠せなかった。いくらネロの指示だとはいえ、自分達に命中すると思い込んでいたからである。対して、セルポップのことをよく知っているネロと親衛隊達は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そろそろではないか?」
「御意。プロテクト フロム エネミーズ!」
 親衛隊が唱えると、全てのセルポップがカタカタ動き出し、最後に大きく口を開けた。
「ギュキャァァァァァァァァ!」
 セルポップはうめき声を発すると同時に、口が青白く光り、それが閃光となって帝国陸軍の兵達に襲いかかった。
 「プロテクト フロム エネミーズ」これは、敵からの攻撃を全て吸収し、それを倍のエネルギーで攻撃者に返す術である。この術は、同名のマジカルオイルによってプログラミングされ、セルポップという精霊を媒体にすることで発動した。
 この術は、行使した親衛隊が幻影によって作られたものではなかった。修羅地獄で捕らえた天使を拷問して聞き出したもの。天使の術だからこそ絶大な効果を発揮した。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
 ネロ達の目の前にいる帝国陸軍の兵達は例外なく倒れていった。後から駆けつたために難を逃れた兵達は、目の前の惨状に脅え体を硬くした。
「我が精霊セルポップよ、以降より随時迎撃すべし」
 この言葉を境に、帝国陸軍の弾が煙を通過するごとにセルポップが現れ、続けて閃光によって迎撃し、消えていくというサイクルが生まれた。
「諸君、一斉砲撃」
 最新兵器を手にした伊達家の武士達は、ネロのかけ声で一斉に砲撃した。次々に倒れていく帝国陸軍の兵達。伊達家の武士達の攻撃に加え、セルポップの迎撃で帝国陸軍の兵達は為す術もなかった。対してネロ達は全くの無傷だった。
「四番線、三鷹方面行き電車が参ります」
 ネロ達の背後にあたるホームから電車が来て、停車した。
 それを見た親衛隊は、バズーカー包を幻影によって作り出すと、ドアが開くのを待たずして、電車に砲撃した。大きな爆音が鳴ったかと思うや否や、全車両が炎上した。それほど大きな威力のあるものだった。しかしそれは霊的な炎。当然物質としての電車が燃えているわけではなかった。
「ぎゃぁぁぁ!」
 ドアが開くと同時に火だるまになりながら帝国陸軍の兵が飛び出してきた。この電車に乗っていたのは、帝国陸軍の本拠地である市ヶ谷駅から送り込まれた援軍だった。暫くすると、ドアが閉じ、去っていった。
「やはり援軍が来たか。となると背後にあたる四番線の警戒を怠ったら駄目だな」
「絶体絶命じゃないですか!」
「真之介さん、あなたは情報を集めることにかけては私の認めるところだが、参謀としては今一歩だな。電車で攻めてくるということは、敵は決まった方向からしか来ることができないということ。だとすれば、迎撃が容易だということだ。伊達家のあなた達、バズーカー砲にて敵が尽きるまで迎撃せよ」
 ネロによって指名された伊達家の武士三名は、先程砲撃した親衛隊が持っていたバズーカー砲と同じものを手にすると、まだ来ぬ電車を待ちながらバズーカー砲を構えた。
「分かるか真之介さん。親衛隊じゃなくても武器さえあれば砲撃できる。電車が来たら引き金を引くだけ。それだけで敵の援軍を殲滅できるのだよ。こんな容易な方法で敵の戦力を削ぐことができるのは好機だと思わないか?」
「失礼しました……」
 思わず俯いてしまう真之介。ネロ達になれてきたとはいえ、ネロの戦略性を理解するまでには至らなかった。。
「三番線、千葉方面行き電車が参ります」
 今度は伊達家の援軍が来た。
「よし。援軍は四番線からだけではない。営団地下鉄方面からのものがほとんどだ。これより営団地下鉄改札まで突撃する。戦闘中の諸君は引き続きこの場で戦闘にあたれ。援軍の諸君は私に続き営団地下鉄改札口まで突撃」
「おう!」
 ネロと数名の親衛隊、援軍の伊達家の武士は改札に続く階段まで駆け上がっていった。その時、ネロの目の前に金色の狼が三匹現れ、口から火焔を吐き出しながら辺りを焼き払った。
 ネロが召喚した狼により、ネロ達に牙を剥こうとしている帝国陸軍の兵達のほとんどが火だるまになり、その場でのたうち回っていた。かろうじて難を逃れた兵達は伊達家によって確実に仕留められていった。
 階段を上がるとすぐに改札があった。これは国鉄の改札。東京メトロの改札ではない。皆国鉄改札を越え、すぐに営団地下鉄改札にまで到達した。改札の先は営団地下鉄。帝国陸軍が真の意味で勢力下においているといっていい領域。ネロは帝国陸軍を殲滅させたい衝動をぐっと堪えつつ、作業に取りかかった。
「親衛隊の諸君。この改札を境に封鎖せよ。一切の霊が行き来できないように厳重な結界をはるように。伊達家の諸君は改札を乗り越えようとする敵を迎撃し、親衛隊を援護するように」
「御意」
「おう」
 数名の親衛隊は、戦闘の最中にありながら、帝国陸軍の兵達には一切目もくれず、ワンドを使って改札側の床に複雑な図形を描き始めた。その瞬間、地面から風が巻き起こり雰囲気を一変させた。この変化に帝国陸軍は言いようのない不安感を感じたのか、親衛隊達の動きを止めなくてはならないと直感し、親衛隊達に銃を向けた。それを阻止しようと発砲する伊達家の武士達。
 営団地下鉄改札封鎖を巡り、両者の熾烈な攻防が始まった。