小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|120ページ/140ページ|

次のページ前のページ
 

第17章「セルポップの咆哮」


 その頃、現世のジパングでは、ネロと政宗の結束が更に固まり、その勢いはジパング首都圏の勢力地図を大きく塗り替えようとしていた。
 ネロと親衛隊達、そして真之介は新宿駅の中央線ホームにいた。
「真之介、どうして中央線はどの軍門にも下っていないのか? 首都圏の要ではないか」
「只野様にお伺いしたところ、伊達家が山手線を勢力下においている上に、帝国軍が勢力下においている営団地下鉄に隣接している駅も多いとのことで、誰も手を出せないのではと」
 営団地下鉄とは今でいう東京メトロのことである。
 真之介は当初、現世に不慣れなネロ達の道案内を命じられていた。伊達家と同盟を組んだ今も、ネロ達に情報を提供する役目にあった。以前まで、特別な能力がなく、存在する意欲もないまま彷徨っていた真之介は、ネロの臣下に下ることで、その能力を開花させた。
 情報こそ全て。これは政宗の口癖だった。真之介もまた、情報を操り、それをネロに提供することで、最大限の力を発揮することにやり甲斐を感じていた。
「だったら、伊達家が勢力下に置くのも容易なことではないか? なのに今の今まで手を付けていない様子。解せぬな」
 ネロがそう言うのも無理なかった。中央線は、伊達家が制圧している山手線が乗り入れている駅が4つある。それは東京駅、新橋駅、新宿駅、新橋駅。いずれもジパングを代表する駅である。その要となる駅を勢力下においているのに、伊達家が中央線に手を付けていないのは不自然であった。
「ここからは私の推測になりますが、山手線は巨大な駅が多くあります。それは一見、伊達家の勢力を示すものだといえますが、逆に多くの路線が入り乱れる危険地帯が多いことを意味します。大きな勢力を誇る伊達家とはいえ、山手線を守るのが精一杯なのではないかと思います」
「ふっその程度か」
「いえ、伊達家だからこそ山手線を制圧できたとも言えます。他の勢力だったら無理だったでしょうね」
「真之介さん、政宗さんに似てきたな」
「え……あ……はい」
 真之介は、ネロの唐突な言葉にどんな真意があるのか量りきれず、曖昧な返答しかできなかった。
「何を困った顔をしている。私はあなたを褒めたのだ。これより先もローマ帝国の諜報部員として精進するように」
 ネロは滅多に人を褒めない。それだけ求めるところが多いのである。にも関わらず明らかな褒め言葉を言われたことの意味を真之介はよく分かっていた。ネロと出会うまで自分の価値を見いだせなかった真之介は、ネロの言葉に恍惚とした。
「勿体ないお言葉……より一層精進致します」
「それでよい」
 その時、丁度電車がホームに着いた。
「諸君、これより、中央線でも新宿駅から東を制圧する。山手線から内側の領土を完全制圧する足がかりにしたい」
「御意」
 ネロは路線図をほぼ完全に理解した。それにより、領土拡大をしていくための戦略を立てることを可能にした。修羅地獄においてローマ帝国を大きくしたのは、カリグラの政治力とネロの戦略性であった。ネロは現世においてもその力を発揮しようとしていた。
 ネロ達は電車に乗りこんだ。電車は平日の昼間であるためか、乗客はまばらで、ネロ達の緊張感の漂っている雰囲気と対照的に静まりかえっていた。
「殿下、中央線を制圧する意義は分かりますが、三田様の捜索が一向に進んでおりませぬが……」
「あなたの言うことも一理ある。しかし三田様の情報入手が困難である以上、我々の勢力を広げ影響力を高めていかなくてはならない。情報というものは、より権力の強い方に集まるものなのだ」
「なるほど……殿下の真意も分かるまま無礼を……」
「よい。このことはいずれ話さなければなるまいと思っていた。丁度よい」
「ネロ様、次の代々木駅は伊達家の軍門に下っているので大丈夫なのですが、その次の千駄ヶ谷駅から伊達家の領土を外れます。実のところ、どういう状態になっているか分かっていません」
「真之介さん、そんなこと私だって容易に推測できる。当たり前のことではなくてもっと気の利いたことを言ってくれないか?」
「失礼しました。千駄ヶ谷駅、信濃町駅までは中央線のみの小さな駅です。他の路線の乗り入れもありませんので、制圧は容易でしょう。しかし四谷駅、市ヶ谷駅、飯田橋駅の制圧は困難を極める可能性があります」
「それはどうしてだ?」
「帝国陸軍の本拠地は靖国神社。市ヶ谷駅の側に位置します。となると駅としての拠点は市ヶ谷駅に置くのが定石。営団地下鉄を中心に勢力を伸ばしている帝国陸軍でも、市ヶ谷駅とその周辺は地上の駅も制圧していると考えることができるからです」
「つまりは、この中央線は帝国陸軍の本拠地も含まれるわけだな」
「その通りです。上野駅のように地上と地下で棲み分けることも可能でしょうが、果たしてうまくいくのか。今のタイミングで帝国陸軍を一網打尽にするのは尚早ですし、地下鉄は放棄して地上の駅だけを制圧するのが妥当かと」
「なるほど、敵は帝国陸軍のみにあらず。一点に戦力を集中させると脇が甘くなる。真之介さんの言う通りかもしれん。諸君、これより先の戦闘は主に帝国陸軍が相手になることが想定される。されど帝国陸軍の本拠地を殲滅させることが目的ではない。あくまでも中央線の制圧のみに専念せよ」
「御意」
 戦の方針が決まったところで、電車は代々木駅に着いた。
 代々木駅のホームには、伊達家の武士がひしめいていた。その全てがネロ達の乗る電車に乗り込んできた。数にして数百。ガラガラだった車内は一気に満員になった。代々木駅は山手線が乗り入れている駅である。つまり伊達家の勢力圏内。ネロ達の他、伊達家の武士達も今回の作戦に参加していた。
「伊達家の諸君、よく来た。これまで諸君の働きは自軍の領土を守る事が中心だったはずだ。しかしこれより先は、領土拡大の戦である。命がけで任務に向き合うように」
「おう!」
 電車の乗った全ての武士がネロの檄により士気をを上げ、その証として手にした武器と頭上に挙げて大声を発した。しかし、その武器は剣や槍ではなかった。
 拳銃、散弾銃、ロケットランチャー、手榴弾など近代兵器だった。ネロの親衛隊が幻影として具現化したものだった。ネロや親衛隊は紀元前後に活躍した者達である。しかし地獄において新しく入った罪人の記憶を元に、常に最新の兵器が再現されていた。
 しかし、現世において成仏していない霊達は、生前の未練に縛られるため、生きた時代の発想にとらわれていた。その上、地獄の罪人とは違い、幻影を作り出す能力が例外なくなかった。
 地獄の罪人であるネロ達の能力と伊達家の勢力が合わさることで、その武力は格段に向上していた。
 伊達家の武士の中には、火炎放射器の強い光から目を守るためにサングラスを掛けている者もいた。武士としてちょんまげや鎧甲冑という昔ながらの格好にサングラスという近代的で欧米風のものを身に付けるという特異な姿に身を包んでいた。「次は、千駄ヶ谷。お出口は右側です」
 千駄ヶ谷駅に着いたことを示すアナウンスと同時にドアが開いた。
「諸君、戦闘準備! 駅に侵入する」
「おう!」