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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|114ページ/140ページ|

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「それがよさそうですね。それでは単刀直入に聞きます。現在罪人として投獄されている城島春江、現在ハルと呼ばれている者は、以前ガブリエルとして現世救済局局長をされていたハル・エリック・ジブリール様なのかということをお聞きしたい」
「ダニー君、汝がそれを知って何になるというのかね?」
「ジブリール様の存在を疎ましく思っている存在がいます。その存在がジブリール様を抹殺すべく陰謀を謀っています。だから……」
「それはハル君がジブリール君だったら……の話。証拠はあるのかね?」
「ハルが地獄において作り上げた幻影が、ジブリール様に酷似しています」
「これより先、汝の覚悟が問われるぞ。物事には踏み込むべきではない領分というものがある。分かってのことだと考えてもいいか?」
 無表情でありながらも、時折笑みを浮かべていたラファエルが一転、鋭い目つきでダニーを見据えた。その迫力に圧されダニーは言葉を失った。ラファエルの言う覚悟という言葉。その先にある真実の重さに潰されそうになっていた。
「も……勿論です」
「よろしい。待っていたぞ。汝の出現を」
 予想外の言葉にダニーは大きく目を見開いた。
「どういう意味ですか?」
「汝のような者がここに来ることは既に分かっていた」
「え……」
「汝の疑問に答える前に、私の問いに答えよ。ハル君がジブリール君だということが明らかになってどうなるというのかね?」
「ですから、陰謀を暴く一助になります」
「それは汝の正義感か? そのために大きな混乱が起きようともお構いなしだと?」
「検察官の性(さが)というものです。天使は常に潔癖であるべき。一遍の曇りもあってはなりません。陰謀の余地がある限り徹底的に洗い出す。これが我々天使の責務ではないでしょうか? 仮にそこで混乱が起きたとしても、それは陰謀を企んだ者の責任。野放しにする道理にはなりません」
「ダニー君。だから汝は駄目なんだよ。三等止まりなのもその潔癖さ故か?」
「局長ともなれば皮肉を言うこともお上手だということでしょうか?」
「皮肉ではない。文字通りである。純白な魂は存在するのかね? たとえ天使であってもだ。そんな極端な志向が、天使の堕落をもたらしていることに、汝は気付かないのか?」
「それが天使というもの。堕落しているとは随分な言いぐさですね」
「純白であるために、それを穢すものを全力で排除しようとする。穢れた者だとして徹底的に見下す。そこに慈悲は存在しない。穢れた弱き者を赦し、愛で包むことなんぞできはしない。汝もその口か?」
「…………」
 途端に口をつぐむダニーを見て、ラファエルは明らかに口角を上げ、微笑んだ。
「その結果、地獄は正義の名の下に穢れた罪人を痛めつける場に成り下がった。それを堕落と言わずして何と言う? 純白を保つために穢れた者を痛めつけることが正義だと汝等は言うだろうが、その奥にある歪んだ加虐願望を正当化する方便にしかなっていないことに気付いていないのか? 地べたを這いずり回りながらも必死で生きている人間と、正義の名の下に己の歪んだ願望を満たそうとする天使とどちらが尊いと思うかね?」
「その話と……ジブリール様との話は……関係のないことです」
 罪人はゴミだと蔑んでいたダニーは、それを根底から覆すラファエルの言葉に反論することはできなかった。自分の考えは天使の中では当たり前の考え方。その常識にのっとればラファエルの考えこそが詭弁になるはずだった。しかし、それを覆すことができない程の説得力をもってダニーに響いていた。
「まだ分からないのか。汝のような堕落した天使が蔓延しているからジブリール君が敢えて罪を犯してまで地獄に墜ちなければならないのではないか。汝の所属する法務省に自浄能力が欠如しているから、わざわざ現世救世局のジブリール君が身を削って動く羽目になったのではないか。汝は恥ずかしいと思わないのか!」
「正直なところ……私は人間を蔑んでいました。穢れた罪人だと……私は、ラファエル様が仰る「堕落した天使」なのでしょう。でもハルを見ていると、それを邪魔することが何とも滑稽に見えてならないんです。人間ごとき穢れた魂にもかかわらず、迷い無く自らを捧げ人を救おうとする。何の下心もなく真っ直ぐにできる。見届けたいんです。ハルの行く末を。ハルがジブリール様だとしたら、ジブリール様が到達しようとしている先を私も見たい」
「それが汝の覚悟なんだな? 天使としてのプライドを捨ててまで己の正義を追究せんとする」
「そんな大層なことではありません。ただ、ジブリール様がされようとしていることに間違いはない。なのにそれを無慈悲に潰そうとする悪意を許せないだけです」
「汝はカロルのことがそんなに許せないのか?」
「なんと! カロルが黒幕だとご存じなんですか? だったら何故手を打たないのですか!」
「それぐらいジブリール君が自分で対処できなくてどうするんだね? カロルごときに邪魔される程度の力しかなかったとしたら、到底地獄を救うなんてことはできるはずもない。私が動くことはジブリール君の心意気に水を差すことになるんだよ」
「だったら私も動くべきではないと?」
「よく考えてみ給え。陰謀を暴いてどうするつもりだ? カロルを告発するつもりか? それをジブリール君が聞いたとして、よしとするだろうか?」
「……カロルさえも……救おうとするでしょうね……」
「汝の敵を愛せよ。天使訓にある言葉である。この言葉を体現することが汝にできるだろうか? 許せないという言葉を吐くうちは、ジブリール君の到達する先を見る事なんてできないと心得よ」
「私もカロルを許せ? 告発するなと? だったら私のやっていることは全く無意味なんですか?」
「私は、汝を待っていたと言った。汝はジブリール君が目的を達するために必要な存在である。ジブリール君の意志を汲み、汝の正義に従い、適切に行動すべし」
「私は何をどうすればいいか分かりません。ただ、私の存在が必要だとしたら、私の魂が欲するまま動けばいいということ。好きにさせていただきます」
「それでよい。私に臆することなく自らの意志を貫こうとした汝の魂に敬意を表し、汝の求めるものを見せてやろう」
 そう言いながらラファエルは執務室にある膨大なディスクの中から一つ選び、ダニーに渡した。そのディスクには「ハル・エリック・ジブリール」と書いあった。どうやらジブリールのメモリーディスクのようである。
「このディスクは持ち出し禁止だ。よってこの場で閲覧すべし」
「かしこまりました。陰謀の証拠として押収は致しません」
「分かってきたな」
 ラファエルはふっと微笑むと、目の前の書類を手に取り、自分の仕事を始めた。ダニーは、ジブリールのメモリーディスクをケースから出すと、自分のエンジェルビジョンに挿入した。
 エンジェルビジョンには、メモリーディスクの中身が映し出された。