天上万華鏡 ~地獄編~
「思い浮かんだようですね。天使が罪人と手を組むことが公になったら困る。そういうことでしょう。手を組んでいないと言い張ったところであなた方が地獄から脱したことは事実。脱獄が成功したと言われても困る。だからあなた方が現世にいるという情報は保安官に渡っていないと考えるのが自然」
「なるほど……」
政宗の推理にネロを始め親衛隊の者達からどよめきが起きた。それほど説得力のある言葉だったのである。
「だったら、あなた達は自由になるのか。答えは否。あなた方の行動パターンを見るにすぐさま現世で何らかの罪を犯すと考えた。つまり別件で保安官が動き、あなた方はジュネリング強制失効される。地獄に戻ったところで脱獄の事実をもみ消し、口封じのために監禁。そんな筋書きでしょう」
「……カロル・ジンガは判決をいかようにも操作することができる……口封じにコキュートス……あり得る……」
「あなた方は、この事実を知らないまま踊らされてたんですよ。天使が罪人に対等な交渉を持ち込むわけないでしょう。天使はいつだって狡猾なんですよ」
「…………」
余りにも衝撃的すぎてネロ達は言葉を発する事ができなかった。
「我々には情報がある。手足になる兵がいる。あなたに我々は必要なはずだ」
「ほう。そのわりには、あなたの兵のほとんどが人間に憑依していたではないか。憑依は罪なのではないか?」
「憑依禁止法第一条、憑依とは、人間の体の中に入り、害をなすことである……つまり害をなさなければ法にふれない。法を知っているからこそくぐり抜けることができるんですよ。天使は法の奴隷。法の編み目をくぐり抜けたら手出しすることはできないんですよ」
「……なるほど」
「そのカロル・ジンガという者は、私のような者とあなた方が手を組むと想定しなかったはず。天使の思い通りにさせない意味でも私と杯を」
これ程の言葉を聞いて結論が出ないはずはなかった。
「承知した。伊達政宗さん、五分の杯を交わそうか」
ニッコリとした政宗はゆっくりと手を出すと握手を促した。
「これで日本は変わる。新時代の幕開けだ」
歓喜に震える政宗は握手しながら声高らかに叫んだ。
これで最強の武力と知恵が融合することになった。
作品名:天上万華鏡 ~地獄編~ 作家名:仁科 カンヂ